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「本音で話してよ」なんて本音じゃない

「あなたが何にそんなに悩んでいるのか、正直な気持ちを教えてよ」
パワハラ上司にそう言われて、正直な気持ちを答えた。
「もう一緒に仕事したくありません」
怒られた。

「これからのことどう考えてる?真剣に答えてよ」
当時の彼氏にそう言われて、真剣に答えた。
「自分のことで精一杯だから、あなたとのことはまだ何も考えられない」
怒られた。振られた。

世の中の多くの人は、どうやら本音をほとんど話さないらしい。
冗談やお世辞を上手く使いこなして、みんなと仲良くやっているらしい。

自分に正直になること、自分の本音を相手に伝えること、
それこそが誠意だと思っていた。
どうやらそれは違ったらしい。

そんなことに気づくまで、27年間もかかってしまった。

大好きな女の先輩は、お酒が入ると良いことしか言わなくなる。
目の前にいる人を褒めて、褒めて、褒める。
それなのに、酔いが覚めたら、
「あたし飲むと調子良いことしか言わなくなるからさ、この間も後輩の女の子を慰めてたら気に入られちゃって、
それから毎日恋愛の相談が来る。おだてなきゃ良かった」
そんなことを平気で言う。

だから怖い。
私だってお酒の場であなたに褒められたことがあるのに。
本音だと思って素直に喜んでたのに。
当時のあなたも翌日には、「あいつあたしが酔って適当なこと言ってるのわかんなかったのかな」って言われてたのかな。

仕事中のタバコ休憩、会社の飲み会、友達の友達と2人きりの時間、
その中で話されることは、大半が“冗談”なんだろうか。

わかってる、
知らない人に投げかけられた言葉、出会って間もない異性とのLINEにおける質問、
きっと本気でそんなことは思ってなくて、
何としてでも私のことを知りたいとも思ってなくて、
ただ同じように私も適当に返してしまえたらどんなに楽だろう。

昔、スナックでバイトしていた頃、
チーママからよく「もっと適当に返事しなさいよ〜そんな真面目に話してたら可愛げがないわよ」と言われた。
その意味がよくわからなかった。
お金を払って、お酒を飲みに来て、思ってもないことを言い合うなんて、
なんてつまらないんだろうと思った。

だけど、ママには良くしてもらっていたから、
自分なりに頑張った。
全然酔わない頭で必死に考えながら、「ノリとはなんぞや」、
ひたすら考えた。

ある日、もうあまりにも考えが煮詰まって、
本当に適当な接客をした。あまりにも雑な会話。
お客さんが言った言葉をほとんど聞き流して、
「えーなにそれすごーい」とか「めっちゃ面白そう、すごい気になる」とか、
頭を空っぽにして、Botさながら答えた。とりあえず笑っておいた。

その日のチーママは機嫌が良かった。
私のその接客が良かったかららしい。

…なるほど、こんなに本当に何も考えずに話さなくてはいけないのか。
スナックという、現実を忘れさせる場所だとはいえ、
ここまで脳みそを空っぽにしなきゃいけないのか。

相当しんどかった。
自分がまるで誰かわからなくなっていくと
本気でそう思った。

世の中の人たちは、本当にあれくらい適当に会話してるんだろうか。

「マジレス」って言葉があるけど、マジなレスしちゃいけないって何?
「ノリ」ってやつ?

誰かがボケて、誰かがツッコむ。
そういう芸人の真似事みたいな会話が、みんなは楽しいんだろうか。

こんなことだらだら書いてるけど、バカ正直に本音で話すことの方が相手に失礼だってことも学んだ。

当然のことながら、思ってることを何でも言えば良いわけではなく、
それが相手にとって不快な言葉であれば言わない方が良いし、
「優しい嘘」というものだってある。

それに、自分のことだってあまり正直に話さない方が良い。
簡単に自分の隠すべき「弱さ」や「つらさ」を吐露することは、
相手にもたれかかる行為以外の何物でもない。

こんな持病がある、と正直に公表すれば偏見の眼差しを向けられて、
こんな音楽が好きだ、と正直に話せば会話が終わってしまう。

私はいつだって元気で、Adoとかミセスが好きで、
つらい恋愛なんて経験したことがなくて、
嫌いなものなんてなくて、
こだわりもなくて、
特に思想もない。

それくらい適当に大衆向けの回答で交わしてしまえば良い。
そうすればその場は話が途切れることなく、
本当の私も批判を受けなくて済むし、
特に癖のない優良児の仲間入りができる。

別に本当の私なんて知ってもらわなくて良いのだ。
だって相手は本当の私なんて別に興味ないのだから。
ただその場の流れで、ノリで、場を繋ぐため、
私に当たり障りない話題を振ってくれたに過ぎない。

他人からの言葉に、その都度本気で向き合わなくても良い。

そんな、みんなが当たり前のように普段やっているコミュニケーションを取ることが、
私にとってはとてつもなく難しい。

「いつご飯行けそう?」
「今は仕事が忙しいから当分は無理かな。。。」
「そっか、じゃあいつなら空いてる?」
「わかんない」
「じゃあ次のシフト出るのいつ?」

“…いや、察してよ。
私はあんたとご飯なんか行きたくないの。
本当に「今は仕事が忙しい」わけじゃないの。”

私がもし男性に生まれていたら、
きっと女性からこんなことを思われていたんだろうな。

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