ケイイチの結婚(短編少年小説)
アイスクリーム売り屋さんが公園の近くに来た。
暑い日でアイスクリームを買って食べた。
ケイイチはバニラでぼくはチョコ味のだった。
ブランコに並んで乗って食べて、二人同時にアイスを地面に落とした。
すごく暑い日でアイスの落ちた地面の砂がいつもよりも白く見えた。
「あ、そうだ」ってケイイチはアイスのないコーンだけをかじりながらぼくに言った。
「なに?」ってぼくはきいてブランコを止めた。
「さっき結婚したんだ」
「さっきって?」
「ついさっきだよ」
「ふうん、誰と?」
「ずっと結婚したかったひとと」
「へえ、よかったじゃん」
「やさしくするんだ」
「うん」
「結婚してやさしくできないなんて不思議だよ」
「ぼくだって奥さんにやさしくするよ」
「これから毎日たくさんおはなしをするんだ」
「へー、いいな、なんのはなしをするの?」
「まだわかんないよ。だって結婚だもん」
「それもそうだね」
「それにまだ会ったことないから」
「何もわからないで結婚するの?」
「そんなの決まってるよ。結婚だもん」
「あ、そっか」
「なにも知らないとこからだから、おじいちゃんと、おばあちゃんになったときくらいがちょうどピークと思うよ」
「なにが?」
「時が止まるピークだよ、なんでそんなのも知らないの?」
「え、だって結婚だもん」ってぼくは言い返した。
「あ、そっか」とケイイチ。
ぼくらは口のまわりにアイスクリームがついてることを教え合いっこした。
「でも、幸せにならなかったら悲しいね」ってぼくはブランコを動かしなおした。
「結婚に幸せはないよ」ケイイチは小さくブランコを動かした。
「でも、すごくうれしそうじゃん」
「結婚式ができるからね」
「ぼく、そのときにはすごくお祝いするよ」
「ちょっとそれは勘弁して欲しいよ」
「どうして?」
「まだなにもわからないからだよ、結婚だもん」
「じゃあ、わかったら教えてよ。ぼくも結婚するから」
「いいよ、教えるよ」
ぼくらは二人ともブランコを強くこいで、声を大きくした。
「だいたいいつくらい?」
「10年か20年くらい」
「なんだ、もう子供じゃないね」
「子供のうちから結婚するのは、そんなの、オレだけでいいよ」
「ずっと結婚したかったわからないひととなら、ぼくも子供のうちに結婚したいよ……」
落としたアイスクリームに蟻が集まっていた。
こどものおはなしに出てくる蟻はみんな良いキャラだ。
この前はエミ先生が結婚した。
「ぜったい幸せになるからね」と言って泣いてた。
ブランコが止まると、心が止まる気がする。
「どうしてやさしくできないのか不思議だよ……」
「ぼくもそれって不思議だよ……」
「アイスもう一回買いに行こうよ」と言ってケイイチはぴょんっと飛び降りた。
「うん、そうだね」とぼくもそうした。
すごく暑い日の午後にアイスを食べながらケイイチは結婚した。
結婚後のアイスはぼくらは地面に落とさないように気をつけて食べた。
終