ブロッコリー展

きほん、人見知りなネコです。音楽を聴き流すように読み流せる短編小説を目指してます。あと…

ブロッコリー展

きほん、人見知りなネコです。音楽を聴き流すように読み流せる短編小説を目指してます。あと大人小説と少年小説を行ったり来たりします。よろしくお願いします。

最近の記事

キスがうまいだけの男。〜飛翔〜

「キスがうまいだけの男のオールライトニッポン!」 僕のそのタイトルコールにミキサーさんがエコーをくれる。バッチリと決まった。 ここはラジオ曲のスタジオ。椅子に座っている僕の顔の前には吊り下げられた常設マイクロフォン。 「この番組は東京お台場をキーステーションに全国ネットでお届けします。それでは一曲目……」 大体のことは台本に書いてあると聞いていたけど、台本に書いてないことってこんなにないのかと驚いた。そしてなぜにこの台本はこんなにもおじさん構文を貫いているのか。だけど

    • キスがうまいだけの男。〜果断〜

      走るトラックの窓を開けると爽やかな潮風が僕の髪を揺らした。 海岸道路にはところどころ雑草が生えている。釣り餌の看板や貸しボートの看板。 『歓迎 キスがうまい先生さま』の横断幕の下に関係者の方々が集まっているのが見える。 トラックはまっすぐそこへ向かっていく。 その横断幕を見た運転席のトラガールさんが「なんなんあれ?あんたのことなん、あれ?」と目を丸くしている。 説明すると長くなりそうだし、キスがうまいだけの男だとバレるのも面倒なので、「キス釣りがうまいんですよ」と誤

      • キスがうまいだけの男。〜一路〜

        もう、陽は完全に落ちた。本日の高速道路の流れは順調みたいだ。 デコトラに乗ってると、慣れないせいか、なんとなく屋台にいる気分になる。 とはいえ、僕はこんな大きいトラックに乗るのは初めてだ。年上の派手なトラガールさんもさすがはプロドライバー、法定速度でしっかり運転している。 もっとガンガン音楽とかかけるのかと思ったけど、そうでもなかった。 だけどその分、関西のノリでの話は多めだ。 ト「あんたさー、瀬戸内海に行くのに手ぶらで大丈夫なん?」 僕「あ、まあ、一応、現地で必

        • キスがうまいだけの男。〜大任〜

          高らかに電話が鳴った。希望の匂いがするかしないかで言ったら、する。 僕は飛びついて受話器を取る。 「はい、お電話ありがとうございます。株式会社キスがうまいだけの男です」 やや、つかえながら僕が言い切ると、落ち着いた責任感のある男性の声が返ってきた。 「困り事を解決してくれると聞いたものですからお電話を差し上げたのですが、よろしかったでしょうか?」 よし、ついに待ちに待った依頼の電話だ。 僕「ええ、もちろんです。お世話になってます。まだ実績はありませんが、わたくしの

        キスがうまいだけの男。〜飛翔〜

          キスがうまいだけの男。〜起業〜

          「らっしゃいませー、らっしゃいませー」 映画館の巨大なスクリーンにそんな風に元気よく声を張る僕が映っている。 「らいっしゃいませー、らっしゃいませー。わたしゃ入れ歯で歯が立たないよ」 コンビニのバイトなのに啖呵売のセリフを織り交ぜるあたり、社会経験ゼロな僕らしい。 満員の観客の人たちも笑ってくれている。この映画は『5分後に意外なクビ』というタイトルの、僕を追いかけたドキュメンタリー映画で、おかげさまでシーズン2だ。 タイトルの通り、そろそろクビのシーンだ。お客さんも

          キスがうまいだけの男。〜起業〜

          キスがうまいだけの男。〜負託〜

          翌朝、僕にしては早くから目が覚めた。 すごくジャンボリーな夢を見てしまった。 “ほぼ土管”の3Dミスプリント住宅の硬いところで寝たせいで、体中が痛い。なんとか起き上がる。 寝具を早いとこ揃えよう。 ミスプリ住宅に一晩寝てみて思ったことは、二晩は寝るもんじゃないな、ということだ。 体勢的にはカプセルホテルと似ているけど寝心地は雲泥の差。 住宅会社の人は、僕がここに住んだデータを取ると言っていたけど、こんなネガティブなデータをいっぱい集めてどうするんだろう。何かに資す

          キスがうまいだけの男。〜負託〜

          キスがうまいだけの男。〜契約〜

          トナラー問題とはこういうことなんだろうか。 喫茶店のボックス席で何故かそのビジネスマンの人はガッツリ僕の隣に座った。『向かい合う』一択の状況だと思うが……。 とにかく僕は遠慮なく、コーヒーとナンカレーとナポリタンと茶漬けを頼む。この次にいつご飯が食べられるかわからないので食い溜めだ。およそキスのうまいやつの食い合わせでないことは承知している。 トナラーのビジネスマンさんはメロンソーダを頼んだ。その人はメガネをかけているので、横だと、レンズの厚さがよくわかった。もみあげに

          キスがうまいだけの男。〜契約〜

          キスがうまいだけの男。〜救い〜

          不動産屋さんを出た僕は、変に足元が寂しく感じて、自分がサンダル履きだったことをいまさら思い出した。 しかも、署での取り調べ中に借りたトイレのやつを履き間違えてきてしまっていて、甲のところに黒マジックで警察署名と『取り調べ者トイレ』と入っていてとても体裁が悪い。 仕方なく僕はとぼとぼと歩く。まるでスピンオフ版の何かみたいに……。 地球上で最初にとぼとぼ歩いた人類はどれくらい出世できたんだろう。そしてキスがうまい人類はだいだいいつ頃登場したんだろう。タイムマシンでそのキスを

          キスがうまいだけの男。〜救い〜

          キスがうまいだけの男。〜実状〜

          「いらっしゃいませー」と店内にいるスタッフさん全員から声がした。意図してかはわからないかけどちょっとハモっていた。 僕の担当の方もそうだけど、けっこう爽やか体育会系の感じのスタッフさんが多い印象だ。 不動産屋さんの店舗内に1人で入るのなんてもちろん初めてだ。けっこう他のお客さんもいる。そしていろいろ真剣に相談している。 地に足ついてしっかりと生活している人たちは僕には眩しすぎていつもしっかりとは見れない。 さっき声をかけてくれた若い男性のスタッフさんが、「どうぞそちら

          キスがうまいだけの男。〜実状〜

          キスがうまいだけの男。〜助走〜

          署での取り調べはお昼過ぎまでかかった。 「キスがうまいだけということ以外に絶対なにかあるだろう」と、取り調べ官に根掘り葉掘り聞かれた。 腕貫を装着した取り調べ官はなんかそれっぽすぎてやだった。 それにしても、取り調べ室ってこんなにオシャレなカフェみたいな作りにしなくていいじゃないだろうか。この署だけだろうか。逆に落ち着いてしまいすぎて落ち着かない。 僕が、「他に何もないから彼女にフラれたのだ」と説明したら、そこからは恋バナになった。暇なんだろうか。   しばらくの間

          キスがうまいだけの男。〜助走〜

          キスがうまいだけの男。〜序章〜

          「あなたって、キスがうまいだけの男なのよ。なんか、いいわね、キスがうまいだけの男って呼び方。気に入ったわ。あはは、マジうけるー。何にもできない感じがこれほど形容できる言葉ってないわ。笑えるー」 そんなふうにある日、一緒に暮らしていたカノジョから『キスがうまいだけの男』というレッテルを貼られた僕は、途方にくれていた。 その言葉は反論の余地のなさを併せ持った言葉だった。 “何にもできないダメ男”って言われたほうが、まだ、いろいろ言い返せるだろうし、反対に開き直ることも出来た

          キスがうまいだけの男。〜序章〜

          アメショ、ありったけル。/B面

          ── 全裸。 その言葉で簡単に間に合わせられるほどこれは単純な状況じゃない。 ペットショップの店先での出来事を超越しすぎている……。 その女の人は21か22か23歳くらいに見える。いや、26歳くらいかもしれない。髪の毛はかなり短い。ベリーベリーショート。目ぢからが強くて眉毛がない。そしてプレパラートみたいに薄い唇。全体としてかなりクールな印象(全裸で寒そうと言う意味ではない)を僕に与えた。 まいったなこれは……。でも初対面だったから逆に相手の顔だけをしっかりと見れた。

          アメショ、ありったけル。/B面

          アメショ、ありったけル。/A面

          ── アメショと僕は新橋SL広場にいた。 小雨の降る肌寒い朝。平日。 僕らは並んで濡れながら立っていた。 通勤時の駅前らしく、通行人の足音が『無関心交響曲』のように聴こえてくる。 「じゃあ、そろそろ始めるぜ」 そう言ったのは、二本足で立って背筋を伸ばしたアメショだ。横に立つ僕を仰ぎ見ている。 「うん、始めるんだね」 僕はそう答えるくらいしか思いつかなかった。 すぐにアメショからクレーム。「おい、坊や。お前のハチマキがズレてるじゃねえか。しっかりと巻き直してシャ

          アメショ、ありったけル。/A面

          みなさん、創作大賞1ヶ月お疲れ様です。今週末に投稿予定の猫ファンタジー(?)小説は3万字程度と、いつもより長めの新作を書きました。読みやすく2話に分割する予定です。 猫好きの人におすすめと言いたいところですが、書くうちに問題作となってしまいました。孤独な男とアメショの物語です。

          みなさん、創作大賞1ヶ月お疲れ様です。今週末に投稿予定の猫ファンタジー(?)小説は3万字程度と、いつもより長めの新作を書きました。読みやすく2話に分割する予定です。 猫好きの人におすすめと言いたいところですが、書くうちに問題作となってしまいました。孤独な男とアメショの物語です。

          誰もセックスしない小説

          「ねえ、ディープキスのとき声出すのって変?」 君はディープキスの途中で僕にそう聞いた。 「変じゃないよ」 僕は一度唇を離してからそう答えたあとでまた口づけた。 僕が上になっていて、君が下になっている場合よりもその逆の時の方が君は声が出た。 ベッドの上でお互いが着ているものを順番に脱がし合いながら、僕らは裸に近づいていった。 R&B MIX の ベットルームBGMが流れていて、照明は君が決めた明るさだった。 いちばん大事なダンスを踊る直前で君は僕の口を手で塞いで、

          誰もセックスしない小説

          君とのキスのはじめかた

          桜木町駅で待ち合わせた。 みなとみらい地区は輝いていた。 まるで夜空の星が人恋しくなって地上に降りてきたみたいに……とか考えたりしてた。 そして君を待っている間に僕は思い至った。 夜ってだからけっこう暗めにできてるんだってね。 夜景は恋へのインターフェース。 架け橋のようなロープウェイ。 その先から君が歩いてくるのが見えた。 遠くからでも目立つ君。昼間もそうだけど。 昼間の会社内で会うときはいつも“君リテラシー”のない僕だ。 今夜はシームレスなデートを楽し

          君とのキスのはじめかた