ブロッコリー展

きほん、人見知りなネコです。音楽を聴き流すように読み流せる短編小説を目指してます。あと…

ブロッコリー展

きほん、人見知りなネコです。音楽を聴き流すように読み流せる短編小説を目指してます。あと大人小説と少年小説を行ったり来たりします。よろしくお願いします。

最近の記事

ドラマ化できない恋だから

もしもこれが誰にも言えない恋とかだったら、とっくにドラマ化されていただろう。 第一話で出会った二人じゃなかった。次回予告にさえ僕らはいなかった。 もしかしたらCMの間に恋してたのかもしれない。 恋してたことだけはたしかだ。 今日も待ち合わせの場所へ君は駆けてきた。 日曜日の夕暮れ。 憂鬱な月曜日があるからこそ、こんなにもドラマチックな気持ちで二人でいられる。ものは考えようだ。 川沿いの散歩道を通って、号棟番号の代わりに野鳥の絵の入った、懐かしい団地群を抜けた。

    • 書き出しを奪われた小説

      というわけでこれは書き出しではない。 書き出しのない小説なんて、 おそらくはイチゴのないショートケーキだ。 師からは“書き出しに全魂を込めよ”と教わった。 つまりこの事態は作家としての魂を奪われたに等しいわけだ。 悔しさのあまり僕は原稿の載った机ごと手で叩いた。 またやられた!これで何度目だろう。 いったいなんのために……。 奴らはいつも僕の隙を見て書き出しだけを奪っていった。 そして後日犯行声明文が僕の元へ届く。 もちろん書き出し有りのやつだ。 『我々

      • 君と長い映画を観たあとで

        エンドロールまでが長かったけど、エンドロールも長かった。 座っているのはもう僕らだけだった。 この頃二人でいても夜を持て余してしまうようになった。 だからこんな深夜に新宿の映画館に来た。 伊勢丹のところで道を渡る時に君は「新しいスーツケースが欲しい」と言っていた。閉店後の伊勢丹は大きな壁みたいになっていた。 そして今、スクリーンを向きながら、なんとなく君が横にもう座ってないような気がした。 必要以上に明るくなったシアター内。 僕が座ったまま横を向くと君はそこにち

        • シュッシュ。

          花言葉なんてひとつも知らなかった。 まして植物を育てたことなんてない。 そんな僕がある日、友人宅を訪ねて植物と出会った。 彼とは大学時代に同じ食品科学の研究をしていて、彼はそのまま研究畑を歩み、僕は自動調理器のセールスマンになっていた。 SNS上で久しぶりに再会して、家に招かれた。 都内のデザイナーズマンション。ベルを鳴らすと、真っ赤な玄関扉が開いて彼が顔を出した。 「いやー、久しぶりだね」 「ああ」 中へ入ると、たくさんの観葉植物がまず目に飛び込んできた。背

        ドラマ化できない恋だから

          Maybe next time

          夕暮れ時。 僕は横浜方面に車を走らせていた。 シティポップなら何をかけても合いそうだった。 湾岸線。 助手席の君は窓を開けて風を見ていた。だから君は海を被っているように見えた。 「別に送ってくれなくてもいいのに」 「君のために何かしたくて」 僕はオートマのシフトレバーを用もなく握った。 恋人じゃない。確かにそうさ。 君を送り届けた後に、何か書けそうな気がした。 少し寒くないか聞いた。君は首を振った。 青い案内表示板の下を通り抜ける。 行き先はひとつだ。

          ペットショップで売られていた小説

          「ねー、見て!きゃわいいー」 恋人がはしゃいでいる。ペットショップにて。 「そうかな」 僕にはまるでそれが可愛く見えなかった。 よくこの店には二人で顔を出すけど、こういう種類の動物は初めてだった。 展示スペースの中のそれは小説本の形をしている。小説なんだろう。 「お昼寝中かなー?」と恋人は僕の袖を摘んだ。 もともと少し変わった感性の恋人だったけど、付き合っているうちにさらに研ぎ澄まされていたようだ。 「お昼寝中だといいな」と僕。小説が起きてきても困る。 ガラ

          ペットショップで売られていた小説

          皆さん、創作大賞2024お疲れ様でした。 たしかスタートした時は春でしたよね笑

          皆さん、創作大賞2024お疲れ様でした。 たしかスタートした時は春でしたよね笑

          落書きみたいな小説

          よく、自分の書いた小説を「落書きみたいなもんですから」と言って謙遜する人っているけど、 僕の場合はまんま落書きだ。 なんだったら記号だけのものとか、果てはインクをこぼしただけのものまである。 それでメシ食えてるから驚く。 若い頃からずっと小説を書いていたけど、ずっとデビューできなかった。 「小説になってない」という辛口な批評をよくもらっていた。 なまじ“小説です”って言って出すからこんなことになるのだろう…… どうしてもプロの小説家になりたかった僕は、とても悩ん

          落書きみたいな小説

          ほとんど頭に入ってこない小説

          いっそつまらないと言って欲しい。 ひと思いにつまらないと言ってもらえたらどんなに楽か。 僕はもうかれこれ15年くらいは小説を書くことで口に糊して生きてきた。 だからこそ余計に不思議でしょうがないのだ。 デビューは、ある文学新人賞で審査員特別賞を受賞したのがきっかけだ。 当時の講評にはこうある。 『私はこれまで豊富な多様性に彩られた数々の新人作家の小説を読んできたが、ここまで頭に入ってこないものは初めてと言わざるを得ない。この小説の書き出しから終わりまでが、袖擦り合

          ほとんど頭に入ってこない小説

          なかなか恋愛に発展しない小説

          なんでくっつくかないんだろうか。 そのくっつかなさは、磁石の反発とかにも例えられないくらいだ。 この頃、僕が恋愛小説を書くといつもこうだ。 過去に、『どんな有り得ないシチュエーションからもくっつくシリーズ』で売れて、さらに『あらすじから始まる恋』シリーズでは、あらすじで完結してしまうという超スピード恋愛小説で業界を震撼させ、今に至る僕としては死活問題なのだ。 書けば書くほどどんどん離れていく作中の二人……。 僕は二人をくっつかせようと必死に書いているのに……。 そ

          なかなか恋愛に発展しない小説

          宇宙から来た小説

          ※本文中の(カッコ)内は特に読まないでもかまいません。なんらの思想の発展の土台たりえないからです。 【本編】 なんでこうなってしまったんだろう……。 僕はそれに目を落としながら、異次元の疑問の緩和を感じていた。 それは天板が楕円形のガラスでできた会議用円卓の上に厳重に置かれている。 記録カメラマンがフラッシュを焚いた。通常の製本を施された通常の本が明るく反射する。 なんの説明もなされない場合それはただの小説に見えるだろう。 いったい誰なんだ……。これを“宇宙から

          宇宙から来た小説

          身に覚えのない小説

          例えば、身に覚えのない請求がクレジットカード会社から来たとして、それならまだ“身に覚えのなさ”がうまく人に伝えられる。 ではそれが小説だったらどうだろう。 ある日、僕の家に身に覚えのない小説がやってきた。 インターホンを押す小説を僕は初めて見て、そこで事実は小説よりも奇なりと素直に思えなくなった。 ハードカバーの単行本。 ドアを開けるとその小説は風もないのにバラバラとページが捲られて、不思議と笑っているように見えた。 カバーのそでのところで握手を求めてくる。 小

          身に覚えのない小説

          night drive × SF

          君に一目惚れした次の日に新車を買った。唯一無二の流線型。スポーツ自動運転を楽しむタイプの完全自動運転車だ。 同世代の平均年収を下回っている僕なんかでも超高級車が手に入る時代。 テクノロジー連動型仕組ローンを組めば平気。 バイオテクノロジーの進化でどんどん健康寿命が伸びていくことを前提として独自の試算で組まれたカーローンなので、新技術が生まれるたびに月々の支払は楽になっていく。 今の金利設定が示唆しているところだと、100年生きた頃には300年生きられるようになってるら

          太陽をつまんだ男

          近い将来人間のやる仕事が無くなると聞いてはいたが、まさか職安だけ残るとは思わなかった。 僕は毎日、職安に通っている。 だいたい50億年先まで求人はないといつも言われる。 それでも他にやることがないので日々通っている。 こんなにマメに通っているのなんてもう地球上で僕くらいなものだろう。 もちろん職安の人だってボランティアみたいなものだ。 そんなある日、焼けつくような暑さの日。 ついに仕事の話が出た。 50億年先に役に立つ仕事ならありますよと言われたのだ。 “太

          太陽をつまんだ男

          冬眠ビジネス

          「冬眠いかがすかー、冬眠いかがすかー」 僕はこの冬から一般のかた向けに『冬眠』を提供するサービスを始めた。 だからこの商売を早く軌道に乗せるためにこうして街頭で声を枯らしているわけだ。 「冬眠いかがすかー、冬眠いかがすかー」 物価高と不景気で国民の大半が生活に苦しんでいる。暗い顔で足早に通り過ぎていく人たち。 このビジネスを始めたのは、みんなを助ける意味もあるのだ。 一年の4分の1、冬の間眠り続けることで出費を抑えていただき、残りの春夏秋を豊かだった頃と同水準の暮

          シリーズ“ある男”⑩ 殺人事件を殺した男

          天気は西から下り坂とのことだった…… 激しい雨が降り始め、張り込みを中断した私は、マツモトが待機する車に戻った。 刑事には雨男が多い。事件が泣いているのだ。 私は万年警部補だ。涙も枯れた。 乗ろうとしてドアを開けると助手席には子育ての本があった。 「あ、すいません、係長」 運転席の若いマツモトが慌ててそれを後部座席に放った。彼は巡査部長だ。 乗り込んでトレンチコートの雨粒を払う。大粒の雨が車のルーフを打つ。悲鳴のようなワイパーの音。それでも、映画セブンの初日の雨

          シリーズ“ある男”⑩ 殺人事件を殺した男