ドラマ化できない恋だから
もしもこれが誰にも言えない恋とかだったら、とっくにドラマ化されていただろう。
第一話で出会った二人じゃなかった。次回予告にさえ僕らはいなかった。
もしかしたらCMの間に恋してたのかもしれない。
恋してたことだけはたしかだ。
今日も待ち合わせの場所へ君は駆けてきた。
日曜日の夕暮れ。
憂鬱な月曜日があるからこそ、こんなにもドラマチックな気持ちで二人でいられる。ものは考えようだ。
川沿いの散歩道を通って、号棟番号の代わりに野鳥の絵の入った、懐かしい団地群を抜けた。
かわいい犬が散歩していて、「かわいい犬だね」と君は言った。
君のさらに向こう側には西の空の雲がかわいい何かを形にしていた。
白い色が消えかけた横断歩道を渡って、また手を繋いだ。
君とのひとつひとつが僕の中ではドラマ化されてる。
忘れられたみたいな小さい公園のところで僕らは向き合って手を取った。
惑星みたいな回転遊具に雑草が絡まっていた。
大事な話があると君が言った。
君は毎週そう言った。
だから僕は今週も君と大事な話ができる。
もしもドラマなら2週が限度だろう。
ぺこりとお辞儀をした君。
「どうかわたしのサードコーチャーになってください」
「え⁉︎べつにいいよ」
打球が外野に抜けたのを見て、一気にサードベースを蹴ってホームを目指す君を思い浮かべた。君はいつも“学生時代よりも今のほうがずっと青春なんだ”と僕に言っていた。
僕は試しに腕をぐるぐる回してみた。
「違うの。止めて欲しいの」
「え⁉︎」
「わたしのホームインを……全力で」
君が僕の胸に飛び込んできたので、
僕は君を抱きしめた。
いつだってこんなふうに第何話かわからない僕らでいたい。素直にそう思った。
さっきのかわいい犬が小さく吠えた。「かわいいね」と君は腕の中で言った。
ドラマ化できない恋でよかった。
最終回から始められるからね。
終
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