「なぜ」を繰り返す指導の限界
「なぜ」を繰り返す指導の限界
トヨタ自動車は指導に当たって、職場で「なぜ」を何度も繰り返す、ということをよく聞きますが、
この考え方は、まさに原因論の考え方で、これをやりすぎると、メンバーのモチベーションが下がってしまう。そんなことが起こるように思います。それはなぜなのでしょうか?
私は以前鉄道会社で、事故防止の責任者をしていました。そして、トヨタ自動車の「なぜ」を繰り返すアプローチが最適だと思い、実際に応用してみました。
具体的には、鉄道の安全推進会議で、「事故の芽」という、小さな事故を起こした当事者に、根本的な原因を調べるために「なぜ」を繰り返すアプローチでした。
会議の場では、大きな事故に繋がらないよう、抜本的な改善策を見つける必要があり、そのためにもまずはその原因を徹底して探ることをメンバーにお願いしました。
やり取りの一部は、
私が、当事者のAさんに対して「なぜその事故は起こったのか?」と聞くと、
Aさんは:「列車の遅れが生じつつあり、注意が散漫となり、そこに機械の不具合が重なったようだ」と答えました。
私は:「Aさん、機械の不具合とは、具体的にどのような不具合・状態だったのか?その原因は何か?」と聞くと
Aさんは:「メンテナンスが不十分だったのかもしれません。」と答えました。
私は:「では、なぜメンテナンスが不十分だったのだろうか?」と聞くと
Aさんは:「作業員の時間不足が原因かもしれません。」と答えました。
私は:「Aさん、作業員は、なぜ時間不足だったのだろうか?」と聞きました、
こうして、我々は、会議の中で、メンバー全員で「なぜ」を繰り返すことで、問題の本質を探りました。
しかし、数ラウンドを重ねるうちに、Aさん達当事者のメンバーのモチベーションは、徐々に低下して行きました。
大勢のメンバーから、何度も同じ質問をされることに疲れ、考えることが負担に感じられるようになって、「申し訳ありません」を繰り返すようになったのです。
まるで糾弾会になってしまったように思います。
参加していたメンバーの気持ちも:「もう、いい加減にかわいそうだ!」という雰囲気が出てきました。
このことから私は、「なぜを繰り返す」原因論的なアプローチが行き過ぎると、次第にメンバーのモチベーションが下がり、
問題解決自体のエネルギーが下がってしまう事に気が付きました。
申し上げたいことは、
「なぜ」を繰り返すことで、問題の根本原因を突き止めることは重要ですが、それが繰り返し過ぎると、メンバーが無意味な質問に疲れ果て、自己肯定感や、改善への意欲を下げてしまう可能性があるということなのです。
トヨタのアプローチは本来、問題の根本原因を徹底的に理解し、効果的な改善策を導き出すためのものですが、
バランスが取れていないと、逆効果となることがあることを忘れずに、応用する必要があるのではないかと、私は考えるようになりました。
この事例から分かるように、トヨタのアプローチを取り入れる際には、チームメンバーのモチベーションや負担にも配慮することが大切です。
徹底的な原因追求とチームメンバーの意欲維持を両立させることが、成功のカギとなるように思います。
それでは次に、徹底的な原因追求と、チームメンバーの意欲維持を両立させる方法とは、どんな方法があるのでしょうか?
その方法を以下に示します。
① 問題解決の文脈や目標を明確に伝えること。
なぜこのような検討をするのか?目的・目標をが明確であれば、質問に対し、答えようとするモチベーションも高まります。
②当事者やチームメンバーの苦労を尊重するスタンス。
あくまでも当事者の糾弾ではなく、事故そのものの防止のための、フィードバックの機会であることをリーダーが明確にし、
当事者の意欲を下げないような配慮や、問題解決への協力に対する感謝の意を示すこと。
③原因追及は適度な深さと、早めの解決策検討(目的論)への移行
「なぜ」を繰り返す回数は、問題の性質やチームの進捗に合わせて調整する必要があり、原因追求を徹底することも重要ですが、適度な深さで進めることと、
一定の原因が判明すれば、目的論的に 「どう解決するか?」や「解決した理想の状態」をメンバー全体で描き、そこに向かっての具体的な対策に重点を置いた議論に切り替える事。
④ チームメンバーの発言に注意深く耳を傾けることで、彼らの発想や視点に敬意を払い、アイデアの質を向上させること。
⑤肯定的な環境づくり
特に当事者のメンバーが、間違いを恐れずに率直にアイデアを出しやすい環境を作ることが大切。失敗を受け入れ、学びとして捉える文化を醸成する必要があります。
以上、徹底的な原因追求とチームメンバーの意欲維持について私の経験談から、そのポイントをお伝えしました。
「なぜ」を繰り返すアプローチ、そのメリットとデメリットを理解して、使って行くことが、重要だと思います。
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