アジア各国の作家たちに出会おう!コロナの時代に編まれた短編集『絶縁』
作家陣が豪華すぎるアジア各国アンソロジー『絶縁』とは
村田沙耶香(日本)、アルフィアン・サアット(シンガポール)、ハオ・ジンファン(中国)/ウィワット・ルートウィワットウォンサー(タイ)/韓 麗珠(香港)/ラシャムジャ(チベット/グエン・ゴック・トゥ (ベトナム)/連 明偉(台湾)/チョン・セラン(韓国)。
以上9名の作家が同一のテーマについて書いた短編集、『絶縁』がすごい。韓国文学でお馴染みの名前であるチョン・セランや、『折りたたみ北京』で有名な中国SFの名手ハオ・ジンファンの名前だけででもはしゃいでしまう。
そこにチベット文学や、あまり馴染みのないベトナムの作家まで名前を連ねているのだから贅沢な一冊だ。短編集は作家たちのつまみ食いというか、いいとこ取りなお得な形態だと思う。
これはそんな中でも超豪華なつまみ食い本だと思う。
海外文学って敷居が高いなとか、たまにはいつもとは違う守備範囲に手を出したいなって人におすすめ。こってりしてないのに、パンチの効いた短編ばかりが揃っております。
タイトルの『絶縁』の意味するところとは
このアンソロジーは、韓国のチョン・セランが小学館からの日韓で共作しないかという提案に対し、アジア各国で同じテーマに共作しようという逆提案に始まっている。(詳しくは巻末の編集後記のご確認を)
テーマは絶縁、文字通り縁を切る。昔理科の授業で電気を通さない絶縁体というのもあった、あの絶縁である。
なんつーしんどいテーマを!と思うそこのあなた、大正解でございます。この短編集、はっきり言ってどの話もやたらとしんどい。読むとがっつり凹まされます。
一話か二話読むと、休憩いれて、日を改めてもう一話。そこから、またふぅと一休みして読む。結構気力と体力がいります。
それは各短編が描くのが、世代間の断絶であったり、社会から疎外される個人の苦しみであったり、未だに逃れられない家族の繋がりだったりするから。
せっかく共演するのに、あえて暗いテーマを選ぶところが面白い。これが西欧ならば、「未来に向けての共生」みたいな前を向いた光に満ちたテーマにする気がする。
それなのにアジア圏だと絶縁がテーマになる。ところが、不思議なことにこの短編集、読み終わると妙にすっきりするのである。西欧の小説が、辛いことを置いて自ら踏みしめてカラッと前に踏み出すのに対し、アジア圏は辛い気持ちも抱えて歩いていく気配がする。
不快な気持ちの沼に浸かりながら歩いていくと言いますか。無理に前を向かない、共存しているうちにまた気がつけば元気になるさ、と、そんないい意味での呑気さがある。
疲れているときって、肉とか刺激の強い料理より、あっさり出汁の効いたスープとか、おかゆにほっとする。そんな滋味の高い本だと思う。
あふれる異国情緒と、それでも分かるぅ!となる共感性
タイの王政や、チベットでの生活、一見すると日本にいる限り想像もつかない生活圏だ。外国文学の短編集の魅力の一つは、身近でない人々の生活がぐっと近くなることだ。
ああ、あのときニュースで見ていた光景は現地ではこんな感じだったのかという新鮮さや、こちらとの物事の違う受け止め方にも驚く。
その一方で、働いても働いても生活するのにギリギリな辛い現実に、セクハラ被害を巡って感じてしまう男女間での温度差など、身近すぎる問題にはっとさせられる。
結局、どんなに自分と違う条件、場所にいようが人間である以上悩みは似たようなものなのだ。異国情緒を隔てた向こうに、自分と大差ない人々が生きている。それは、例え読んでる話が暗くとも、なにか救われる気がするのだ。
短編から次へ、おすすめ作家紹介
正直どの作家もすごいのだけど、個人的にこの作家なら間違いないという推しを最後に上げておきたい。
ハオ・ジンファン(郝景芳)
言わずもがな中国SFの名手。短編『折りたたみ北京』や、自伝的な要素の強い『1984年に生まれて』など、中国大陸SFの今を突っ走る作家の一人。おすすめは『郝景芳短篇集 (エクス・リブリス)』白水社。
チョン・セラン
『屋上で会いましょう』『保健室のアン・ウニョン先生』など翻訳も多数出ている、韓国文学のスターの一人。正直、こんな軽やかなのに、こんなに変な話なのになんで読むと元気になっちゃうの?と言いたくなるような話ばかり。正直、魔法使いと言われても驚かない。
おすすめはは『屋上で会いましょう (チョン・セランの本 02)』亜紀書房。
ラシャムジャ
チベットというザ・異国な場所を一気に身近に感じさせてくれる凄腕。読むと現代ってまさにこれだなぁという、卑近な生活の苦悩や悩みが身に迫ってくる。チベットの文化や生活を生き生きと描写しつつ、どうやって現代社会と折り合いをつけるかという『チベット文学の新世代 雪を待つ』勉誠出版は名作です。
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