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【エッセイ】生まれてはじめてのクラウドファンディング支援をして、返礼品と感動を受け取った話

楽しみにしていた日めくりカレンダーが届いて歓喜した。

カレンダーの写真にも、添えられている言葉にも、手書きのサンクスカードにもやたらと感動し、ちょっと涙ぐんだ。それが出来上がるまでの物語や葛藤を知っていたから。


 私はYouTubeで旅動画を観るのが好きである。
カップルで世界一周する様子を配信されている「青春の窓」という旅チャンネルも、お気に入りの一つだ。

私は、“スリランカ編”あたりで彼らのことを知った。
なんと彼らは、“トゥクトゥク”という主にタクシーとして使用されている三輪車の免許を自分たちで取得し、その“トゥクトゥク”でスリランカを1周するという。オウムが初めて覚えた言葉を繰り返すように、口を開けば「キャンプ、キャンプ」と繰り返すこのカップルは、へんぴな場所でバカでかい水たまりに“トゥクトゥク”がハマるなど、ハプニングもまあ多い。

他の国へ移ってからの移動手段は主に「徒歩」。ボロボロになりながら歩き続ける姿は、時に滑稽にすら見えたし、「なんでそんなに自分を追い込むんだよぅ」と本気で心配にもなった。けれど、迷いや葛藤を抱きながらも「自分たちらしい旅」を模索する姿は恐ろしいほど等身大で、かっこよくて、輝いていた。


 サバイバルすぎる旅の仕方に、「人生修行モード」を選びやすい私は妙な親近感を一方的に抱いていた。人が好きだけれど、コミュニケーション力が微妙に追いついていない様子もまた、親近感を人知れず増幅させる。

それでも、ハプニングや不思議なご縁で現地の人々と交流を深めていく様子に魅了され、熱心に応援していた。“高評価”ボタンを押しているだけだけれど、とても心を込めて押していたから「熱心」と威張っても許されると信じている。


 今は世界一周を中断し、日本に戻って来ていて、今後は写真展などを開催しつつ、旅を続けていくのだそうだ。その写真展開催にあたり、クラウドファンディングを利用して資金集めをしていることを知った私は、生まれてはじめてクラウドファンディングのサイトに登録して支援を決めた。
すごく緊張した。「私なんかが応援しなくても…」という、訳のわからない感情が湧き上がってきたからである。

ページを開いたり閉じたりしながらウジウジし、5回目くらいでやっと覚悟を決めた。「リターン(返礼品)」の日めくりカレンダーがどうしても欲しかった。モノにつられた感が出てしまったが、応援する気持ちだって本物である。
プロジェクトが失敗したら支援者に返金される仕組みらしく、「このお金が返ってきませんように」と祈った。


 さて、プロジェクトは無事に達成。写真展の開催が決まった。嬉しい。

返礼品の日めくりカレンダーを制作する様子や、写真展の裏側なども動画配信されていて、夢を形にしていく二人の姿を前に「すごいなあ、すごいなあ」という言葉が止まらず、私はシンガポールのマーライオンのように口を開けたまま「すごいなあ、すごいなあ」と口から吐き出し続けた。


 写真展の開催場所は「福岡」「大分」「岡山」「大阪」「東京」の五か所であった。現時点で四か所での開催が終わり、残すは東京のみである。

行くとしたら「大阪」だと決め、ずーっと迷っていたのだが、結局行かなかった。行かなかった今でも「行きたかったなあ」と思っている。“行かない”という選択は今の自分にはベストだったから、後悔はしていない。今後、また写真展の開催があると信じて楽しみにしていようと思う。


 日めくりカレンダーは想像以上だった。想像なんてこれっぽっちもしていなかったけど、「想像以上の代物だ!」と興奮した。
写真を見て動画のエピソードを思い出して笑う。すっかり忘れているものあるけれど「綺麗~」と見惚れる。写真に添えられている言葉たちも美しく、一気に読んでしまうのがもったいなく思えたからまだ読んでいない。これからページをめくる度に美しい言葉に出合えると思うと胸が高鳴る。


 実はクラウドファンディングで支援したことを夫に隠していた。夫はこの手のお金の使い方に対してシビアな発言をすることも多く、バカにされるかもしれないと思ったからだ。

しかし、このカレンダーをポストから持ってきたのは夫であった。
私はカレンダーのことなどすっかり忘れ、自分宛に届いた不審な荷物を訝しんでいた。何も頼んだ覚えはない。裏面を見ると岡山県と書かれている。“なんだこりゃ?”と思いながら、その下に書かれているローマ字を読み上げる。

「お…の…ぷ…ろ…だくしょん!」(…カレンダーだ!!!)

ハッとして、同時に自分の置かれた窮地に焦りを覚える。目の前には夫が、「なんなの、その荷物」という顔で私が中を開けるのを待っている。ここで隠すのはあまりに不自然である。

私「ほら、あの、前におのぷろさんたちが写真展やるって言ったでしょ?それのあれだよ。…クラウドファンディングで応援したの。」

“クラウドファンディング”の部分だけ小声で言った。

さほど関心がない様子の夫だったが、カレンダーを見ると大変感動していた。このシビアな男を感動させるとは、やはりこの日めくりカレンダーはすごい。嬉しくなっているところへ「いくらだったの?」と最も怖れていた質問を投げかけられ、私は再び固まった。

私「え。っと…4,000円」

また金額のところだけ小声で伝えた。

クラウドファンディングの支援金としては安くも高くもない金額かもしれないが、“日めくりカレンダーを4,000円で購入した”と考えると高いと思えなくもない。際どいラインである。ごくりと唾を飲み込み、返事を待つ。


 夫「へえ~。安いね。いい買い物したね」


 その瞬間、脳内で“カンカンカンカン”とゴングが鳴り響き、私は紙ふぶきが舞うなか、膝立ちでグローブをつけた両腕を高く突き上げていた。

『やった…やったよ、おのぷろさん!ちかさん!』


 日めくりカレンダーを見ると、夢に向かって頑張っている「青春の窓」のお二人を思い出して、「よし、私も頑張ろう!」と気合いが入る。気合いが入ったのはいいものの、はて、私は何を頑張ったら良いのでしょう?叶えたい夢が見つからない。

まあでも、夢はなくても“小さなやりたいこと”はたくさんあるから、それを叶えることから始めればいいのかもしれない。


 「毎日ページをめくるのが楽しみだねえ」と、褒められてすっかり気をよくし、ご機嫌の私に向かって夫が半笑いでこう言った。


「え、キミ、忘れずに毎日めくれるの?」


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臆病者の平凡な日々を最後まで読んで
くださり、本当にありがとうございます!
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