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最初の作品で受賞する人、20作目で受賞した人

最近は投稿サイトで人気になって書籍化される作品も増えてきましたが、今も昔も新人賞を受賞してデビューするのが、いわゆる一般小説の作家になる人が多いと思います。
受賞した作家のコメントを読むと、「初めて小説を書きました」という人が結構多いことに驚きます。
僕は大体20作品目に受賞したので、そういう人はどんな徳を積んだんだろうと思いますが、そういう人は書いていなかっただけで小説家になる資質が備わっていたのだと思います。
たくさんの本を読み、数多くの経験を積み、思索を日頃重ねていたから、いざ小説を書こうとしたら素晴らしい物語ができたのでしょう。

どうして今まで書いてこなかった人が小説を書きはじめたのか。村上春樹さんは子供の頃から小説を読んでいましたが、小説家になろうとは微塵も思っていなかったそうです。
それが、神宮球場で野球を見ていたときに、「小説を書こう」と天啓のように突然閃いたそうです。その最初の作品が、群像新人文学賞を受賞したのですから、書いていないだけで村上春樹さんはすでに「小説家」だったのだと思います。
そういう人は、たくさん吸収した物語と自分の中にあるものが満タンのコップから溢れたように小説ができるのかもしれません。

そういう人と比較すると、20作品目で「ポプラ社小説新人賞」奨励賞を受賞した僕は才能がないのかと沈んだ気持ちになってきますが、僕の場合は書きながら上達していったのだと思うようにしています。
自分の中に物語を溜めるのではなく、何作も書きながら熟成させていくタイプなのだと自分に言い聞かせています、才能の違いではなく。そもそも小説の才能ってどんなものかよくわかりませんし。
そう強弁しても、やっぱり一発で受賞する人はなにかしらのものを持っている気もします。

でも、初めて小説を書いて受賞した人にはない経験が僕にはあります。それは、20作以上の小説を書いた経験です。今までずっと書いてきたので、次の作品も書ける自信があります。
最初の作品で受賞した人の中には次回作を完成させるのに苦労した人もいます。最初の作品は自分の中にある情熱や想いをすべて注ぎ込んで完成させたけど、次の作品ができるまでまた水を貯めないといけない。
20作品を書けたということは、一定量の水が湧く泉を自分は持っているのだと信じて、今日も小説を書いています。

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