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物語の強さ

「広島に投下された一発の原子爆爆弾によって約14万人が亡くなった」

事実を説明している文章ですが、とても一文では表現できないほどに重たい現実がそこにあります。
この文章だけでは、14万人の亡くなった人の思いや、戦争の悲惨さが充分に伝わるとは思えません。
本当に起こったことを伝えるためには、歴史的事実を積み重ねた細かい描写で語る必要があると思います。

あの日(その後の日々も)広島の人の身に起きたことを伝えるためには、物語が必要だと思います。映画でもマンガでも良いと思いますし、もちろん小説でも。
歴史的事実を背景に登場人物を描き、心情を描写し、作品中の人たちと一緒に過ごすことで、あたかもその時代に自分が生きているような感覚を読者に味わってもらえます。
亡くなった人がどういう人なのか、どういう境遇だったのか、どういう思いを日々抱いていたのか。
フィクションでも良いと思います。歴史的事実を踏まえた内容なら、架空の人物を描いたとしても、その時代の空気や思いは伝わり、読者は当事者として問題と向き合えるに違いありません。

物語を消費する間、現実に流れる時間も大事です。長編小説なら読むのに2時間以上はかかるでしょう。長い時間を物語の中で過ごしているうちに、人は考え、過去の辛い現実に思いを巡らせ、感慨を得るでしょう。
一文を読んだだけでは決して味わえない感覚だと思います。

一文では伝わらないことを伝えることこそが、物語る理由なのかもしれません。「戦争は良くない」と簡単に言えますが、物語を読むことで、本当の悲惨さと意味を知ることができます。
小説を書くのは時間が掛かるし、手間も掛かります。でも、それだけの労力を費やす意味があると思います。

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