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受け身の主人公にしたくなかった

7月18日刊行予定の「夏のピルグリム」は、傷ついた13歳の女の子が主人公です。
プロットを作っているときに、受け身の主人公にはしたくないと思っていました。
主人公が学生だと、自由に使えるお金も少ないし、知識経験もなく、行動範囲も狭いのが普通です。できることが限られてくるので、どうしても受け身になりがちです。
心に傷を負った人が、自分から積極的に動きすぎるのは不自然なので、どうしても受動的になりがちです。色々な人が話しかけてきて、親切にされる話が多いです。
僕は若い主人公だからこそ、自らの運命を切り開いて欲しいし、それができるように成長してゆく過程を描きたくなります。
最初は傷つくようなことが起きても、そこから徐々に回復していくような物語。人が成長していく話が好きなんでしょうね、きっと。
思えば、過去に書いた作品も、そのような話が多かった気がします。

そうした話を書くと、「主人公の大胆な行動に勇気をもらいました」的な感想をいただくことがあります。
小説は書き上がったら読者のものなので、どのように読むのも自由なのですが、作者としては、主人公が大胆に行動した覚えはなく、止むに止まれず新たな一歩を踏み出したように書いたつもりでした。

どうも、世間と自分とでは、「大胆な行動」の度合いが違うようです。僕の感覚では大したことなくても、世間的には大胆に思われてしまうようです。多分それは僕が基本的に楽観的だからだと思います。
かなり好き勝手に生きてきた自覚はありますし、日常生活で落ち込むことはほとんどありません。そうやって自分の特性を並べると、小説家としては向かない性格な気もしてきます。

小説に求めるものは人によって異なると思いますが、小説が好きな人は、内向的で物静かな思考を纏った人が一定数いる気がします。
日々の暮らしに疲れた人が、同じように小説世界で悩む人に共感することで癒される、そういった人もいるかと思います。
読書という行為自体が、他人と競争することが多いスポーツに比べれば内向きですからね。もちろん、内向きが悪いといっているわけではないです、念のため。

同じ境遇の人を見て共感して癒されることもあるでしょうし、人が成長する姿を見て勇気づけられる人もいるでしょう。
どちらが正しいということではなく、東洋医学と西洋医学があるように、さまざまな癒やし方があってよいと思います。

夏のピルグリム」では、傷ついた夏子が巡礼の旅に出て、多くの人に会い、さまざまな経験をする過程で、回復していく物語です。
小説内で夏子と一緒に日本各地を旅することで、読者の方も癒されてもらえれば嬉しいです。
読んでくれた人が、どのような感想をいただくのか楽しみのようで、ちょっと怖いですね。

著者初の単行本形式の小説「夏のピルグリム」がポプラ社より7月18日に刊行されます。「ポプラ社小説新人賞」奨励賞受賞作です。よろしかったら予約してください。善い物語です!



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