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お祝いと一緒にもらった言葉

ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」を出版して十日の間に、多くの方に祝っていただきました。出版を機に五年ぶりにお会いした人もいました。春に奨励賞を受賞したときよりも、多くの方が喜んでくれた気がします。本を出版するということが多くの人にとって大きなインパクトがある出来事だからでしょう。

「おめでとう!」に続けてよく言われたのが、「本って売れないでしょ?」です。一般の人に「出版不況」ということが定着しているのを実感しました。
僕の本が出たから、久々に本を買ったという人もいました。

「出版不況」の原因は様々ですが、一番大きな要因はスマホの登場だと思います。東京で電車に乗って周りの乗客を見ると、ほぼ全ての人がスマホの画面を見ていました。本を読んでいる人はほとんどいません。

僕はずっとIT企業に勤めていましたし、子供の頃からパソコンに通じていたデジタルキッズ(死語)なので、初代iPhoneに感動して、すぐに買いそれ以来毎年のように買い替えてきました。

様々な機能を持つスマートフォンは、他のデバイス市場を駆逐してきました。具体的にはコンパクトデジタルカメラ、MP3プレイヤー、ポータブルゲームプレイヤーなどなどです。スマートフォンの登場により多くの市場が縮小ないし消滅しました。
スマホの存在が出版市場を縮小したのは間違いないですが、他の市場とは事情が少々異なると思います。
スマホで読める電子書籍が登場したから、「出版不況」が進んだかというとそうではなく、スマートフォンで楽しめるもの(悪い言い方をすれば、時間を潰せる)が増えたから、本を読む機会が減ったのではないかと思っています。

出版業界の縮小よりも深刻な問題は、書店数の減少です。出版不況という言葉を使ってきましたが、今直面している事態は「書店危機」だと思います。
書店の売り上げが減った理由は、書店の売上を占めていた雑誌と漫画が書店で売れなくなったのが大きいように思います。スマホで情報を入手できるようになったことで、書店で雑誌を買う人が減りました。漫画はAmazonなどで単行本を買う人も増えましたし、縦読みの漫画など、小説よりも早く漫画の電子書籍が広く普及しました。

コンシューマー向け商品の場合、実店舗の数が売上を大きく左右します。
店頭に商品が並んでいることで展示が広告の代わりにもなり、消費者が手にとってくれるわけです。

書店が急激に減っていることで、本が売れなくなり、本が売れなくなることでさらに書店が減るというネガティブスパイラルが起きてます。
最近の書店の減少は、巨大な渦のせいで「底が抜けてしまった」印象があり、市場の縮小を通り越し、市場の消滅さえ予期させる現象が起きています。

深刻な「書店危機」を回避するために、デビューしたばかりの新人作家ができることはわずかです。以前にも書きましたが、「良い物語を作ること」だけだと思います。

書店がなくなってしまえば、どんなに良い物語が書けても、本を売ることはできなくなりますが、僕はそんなに悲観していません。
時代によって販売形態が変わっても良いものはなくならないからです。昔はどの街にも専門の布団屋さんがありましたが、今では数が減ってしまいました。それでも、布団は無くなりませんし、布団屋さんも存在します。
寝具は必要不可欠だけど、小説が娯楽だから他のものに代わってしまうのでは? と思う人もいるでしょうが、テレビ放送が開始すると映画館がなくなると言われましたが、名画座など街の映画館はなくなっても、今でもシネコンやミニシアターの形態として残っています。ネット隆盛の現代はテレビがなくなると言われてきましたが、今でも健在です(以前よりパワーは落ちていますが)。

ただ、小説の影響は今後もう少し減っていくかもしれません。他にもたくさんの娯楽があり、小説が娯楽の中心にあったのは大昔の出来事になってしまいました。それでも、娯楽の王様だった過去の雰囲気を小説は今でも残していると思います。
芥川賞と直木賞の受賞はニュースで報道されますが、新人賞の発表がニュースにのぼらない娯楽は他にたくさんあります。
藤井聡太さんの活躍で将棋のタイトル戦の結果は報道されるようになりましたが、藤井さん登場以前はタイトル戦が行われていることを多くの人は知らなかったでしょう。

小説はもう少し娯楽としての地位を落とし、好きな人が気軽に楽しめるようになるものになっていくのではと思っています。
「小説はすごいぞ!」と肩肘はらず、肩の力を落とした方が小説をより楽しめる気がしています。

あ、でもやっぱり小説を多くの人に届けたい作者の気持ちは変わりませんけど。

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