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短編小説「観覧車」 約2000字

むかしむかし、漫画を描くためにはストーリーと言葉も鍛えなくてはならないと思って、文章の勉強もしたりしました。

これはその時に書いた短編小説です。

勉強をはじめてから、だいたい半年くらいの頃に書いた小説なので、ハッキリ言って黒歴史です。

文章を打ち込んでいる間、ずっと「キツイ、キツイ」と悶えていました。

まぁ、なんとか読めると思うので勘弁してください。






「綺麗だね。」

観覧車の中、目の前にいる少女が夕日の沈む街並みを、うっとりとした表情で眺めながら言った。

「今日は本っ当に楽しかった。これでもう思い残すことは無いかな」

彼女はそう言って、一瞬悲しそうな表情をするが、すぐその表情を振り払い

「貴重な一日を、私なんかのためにパァにしちゃってごめんね。」

そう言う彼女に、俺は正直な気持ちを返す。

「いや、そんなこと無いよ。俺も十分楽しかったし……」

すると、彼女は本当にうれしそうな顔をして

「ほんとに!?良かったぁ、実は迷惑してるんじゃないかって不安だったんだ」

観覧車がてっぺんに到着した。そして地上に向け下り始める。

下がっていくにつれて彼女の姿がだんだんと薄くなっていく。

「もう……時間、無いみたいだね……」



彼女とは、物心ついたときから小中高とずっと一緒だった。

いわゆる幼馴染というやつだ。

小柄な体に、似つかわしくない存在感。

そして、一挙一動の可愛らしいしぐさが、一際一目を惹いていた。


そんな彼女が、交通事故で亡くなったという知らせを聞いたのは、丁度一週間前のことだった。

都会でフリーターをしていた俺は、その知らせを聞いて、すぐ荷持も持たずにアパートから飛び出した。

そして、その次の日の通夜で見た彼女の死に顔は、事故で亡くなったことなど、微塵にも感じさせないほど安らかなものだった。

まるで、ただ寝ているだけで、目覚めの時が来るかのように……


翌日の葬式には出席しなかった。

彼女のことなど何も知らないのに、あたかも自分の身内が亡くなったかのように、ふるまう連中と同じ空間で、彼女のことを弔うということなど、耐えられなかったからだ。


その次の日は、何も考えることができず、実家で一日中ぼうっとしていた。


その次の日も同じだった。

何かしようとしても全く手につかなかった。


翌朝、彼女の母親が手紙を持ってやってきた。

彼女の遺品を整理していたら、出てきたのだと言う。

どうやら高校生の頃、彼女が俺宛に書いたもので、結局渡すことができず机の奥底にしまっていたらしい。


手紙の内容は俺に対する秘めた想い。

お互いの距離があまりにも近すぎたために、形容することができなかった感情。

それは俺と同じ想い……


俺は、その手紙を握りしめて息の続く限り走った。

どこまでも、どこまでも力の限り走り続けた。

そのまま消えて無くなってしまいたかった。

そして、彼女が亡くなってから初めて俺は泣いた。

泣いて泣いて泣き続けた。


翌日、俺は町をブラブラと歩き回った。

少しでも彼女と過ごしたこの町での日々のことを、忘れてしまわないように。


そして今朝、アパートに戻った俺はそこで我が目を疑った。

なんと俺の部屋に、死んでしまった幼馴染がいたのだ。


彼女は六日前に見たときの姿よりいくらか若く見え、俺の記憶にある高校生の頃の彼女の姿と重なった。


呆然と立ち尽くす俺に、彼女は昔と変わらないお日様のような笑顔で

『ね、デートしよ!』

と言ってきた。




「……………ック、………ヒック……………ヒック…………」

だんだんと薄くなっていく彼女の瞳から、大粒の涙がいくつもいくつもこぼれ落ちた。

「……ヒック、……や……やっぱり……嫌……、ック……、いや……だよぅ……」

泣いている……

「……消えたく……ない……よぅ……」


しかし彼女の体はどんどん薄れていく。

「いや…………いや…………いやぁ!」

俺は泣きじゃくる彼女を抱きしめようとした。

しかし、薄れていく彼女の体に触れることができず、抱きしめようとした俺の腕は空を切った。


それを見た彼女の泣き声は、より一層大きくなった。


「うわぁぁぁん」


俺は今にも叫びだしそうな想いにかられた。

しかし、すんでのところでそれを堪えた。

おそらくこれが彼女と過ごす最後の瞬間だ。

俺は涙を堪え、彼女に言った。


「……俺、……お前のこと忘れないから……」

こぼさないようにしていた雫が一粒流れ落ちた。


「俺の中にいる……お前は……俺の中でずっと……生き続けるから……」


彼女は俺のこぼした一粒の涙に、何かを感じ取ったのか、ぎゅっと唇をかみ締めて、俺に微笑んだ。


「ねぇ……最後のお願い……聞いてくれる?」

もう、限りなく薄れてしまっている。

俺も同じように微笑んでうなずいた。

そして彼女は言った。


「キス……して……くれる?」


彼女のお願いに、俺は夕日でオレンジ色に染まった観覧車の中―――キスをした。


もうお互い触れることも、体温を感じることもできなかったが、それでも唇を重ねた。


そして…………


観覧車が地上に下りきる頃、そこにはもう彼女の姿は無かった。


俺は、彼女が最後に見せた笑顔を心に焼き付けた。

そして、何度も何度も心の中で彼女に語りかけた。


―――忘れないから…………



それ以来、俺は毎年同じ日に一人この観覧車に乗っている。


バカなことかもしれない…………


ただの自己満足かもしれない…………


それでも俺は観覧車に乗っている。


彼女のことを、彼女が最後に見せたあの笑顔を、ずっと忘れないように…………




ここまで読んで下さってありがとうございました。


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