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森の民カルリ、鳥になる|民族誌を読む#1|Quiz

世界の諸民族・諸文化を参与観察した民族誌(エスノグラフィー)を読み、そこに書かれていることをクイズ形式で紹介する文章をシリーズ化しようと思っています。クイズの内容は、各著作のもととなった人類学的調査が行われた時期に拠っているので、2023年現在の事実とは異なるだろうことをご承知おきください。


1回目はパプア・ニューギニアのカルリ社会です。

大パプア平原には標高2,600㍍のボサビ山があり、その北斜面にボサビ語族の四つの小集団があります。そのうちのひとつが「カルリ」です。

カルリは焼畑農耕民であり、主食はサゴヤシです。父系クランの15家族ほどがロングハウスで暮らしています。ニューギニア高地とは異なり平等な社会で、交換や儀礼的もてなしなど互酬性を大事にします。

「ギサロ」と呼ばれる儀礼では、歌い手が地名や樹木、鳥などの名前を物語調の歌詞にして歌い上げます。歌に感動して村人が涙を流せば、彼は歌い手に火傷を負わせます。それが歌い手の名誉になります。


問1
カルリ社会を題材にした『鳥になった少年/Sound and sentiment: birds, weeping, poetics and song in Kaluli expresion』を書いた研究者は次のうちどれですか?
①E.L.シーフェリン ②B.B.シーフェリン ③スティーブン・フェルド

問2
カルリでは鳥を鳴き声でグルーピングします。鳴き声には7分類がありますが、そのうち「ホラン」の意味は次のうちどれですか?
①言葉を話す ②口笛を吹く ③泣く

問3
カルリではムネアカカンムリバト(アリン)を食べませんが、その理由は次のうちどれですか?
①飛べないから ②頭の羽毛がきれいだから ③ツカツクリの仲間だから

問4
カルリの神話の「ムニ鳥になった少年」では、男の子が姉と一緒にザリガニとりに行き、一匹も捕まえられずに鳥になってしまいます。その鳥ムニは次のうちどれですか? ヒントは前頭部が朱色です。
①ノドジロヒメアオバト ②パプアハゲミツスイ ③アカカザリフウチョウ

問5
この本の著者がカルリの人々に聞かせた外部の音楽の中で、二種類の音楽ジャンルが人気があったそうです。それらに含まれない音楽は次のうちどれですか?
①アカペラ ②箏曲 ③ブルース


問1の答え=③

英語の原書は1982年出版です。平凡社刊の邦訳の副題は「カルリ社会における音・神話・象徴」です。1949年生まれのスティーブン・フェルドは民族音楽学者で、インディアナ大学で博士号を取得しています。ジャズミュージシャンでもあり、2002年にはVoxLoxというサウンドアートのレーベルを設立しました。

文化人類学者のエドワード.L.シーフェリンとバンビ.B.シーフェリンは夫婦で、フェルドより先にカルリ社会の調査を始め、フェルドをフィールドに招きました。エドワードは『孤独なる者の哀しみと踊り手の火傷』という民族誌を著しています(未邦訳)。

問2の答え=②

ボサビの山中では鳥は目で見ることよりも耳で聞くことのほうが多いので、鳴き声は重要な分類要素となります。

「ホラン」とは口笛を吹くという意味です。他に「エネ・ウィ・サラン」自分の名前を言う(鳴き声を種名に用いた鳥)、「マダ・ガナフォダン」騒音を出す(うるさい鳥)、「イミリン・ガナラン」音を出すだけ(鳴くのではなく体で音を出す鳥)、「ボサビ・ト・サラン」ボサビ語を話す(一つの成句の鳴き声を持つ鳥)、「イェラン」泣く(人間の泣き声に似ている鳥)、「ギサロ・モラン」ギサロを歌う(作曲する鳥)があります。


問3の答え=③

カルリの人々は飛べない鳥やその卵を子どもに食べさせません。それは「発育が遅れ、きちんと歩けず、這うだけとなるおそれがある」と信じているからです。だからカルリの鳥類分類では、地上の鳥か樹上の鳥かの違いが最上位にきます。

アリンは地上の鳥ではありますが、飛べない鳥ではありません。ではなぜ食べないかというと、ハトの仲間ではなく、食物タブーに分類されるツカツクリの仲間だと考えられているからです。体長、冠毛の類似に加えて、どちらも大地創造の神話に登場するから同類だと説明されます。


問4の答え=①

「鳥になること」は生から死への移行を表しています。神話の中で男の子は、姉から食べ物(ザリガニ)を与えられず、食料共有の権利や姉からの庇護を失った孤独さから死んでしまうと解釈されます。

このように子どもがほったらかしにされ、さみしげに鼻をすすって話すとき、カルリの人々は哀れみを感じます。そしてその声がヒメアオバトの高い声と下行する抑揚に似ているととらえます。だから男の子はノドジロヒメアオバトの鳴き声(サ・イェレマ)を残して、飛び去ってしまったのです。


問5の答え=①

ミディアムテンポのブルース(インストゥルメンタル)は人気が高く、なかでもクラリネットとソプラノ・サキソフォンの音色が好まれました。ヒメアオバトの音質に似ているからだそうです。

日本の琴の音楽である箏曲も好評でした。水の音のようだと思われているようです。逆に速いテンポの楽曲は概ね不評だったとのことです。

カルリの人々はフェルドに対し、「おまえの国では歌を聞いて人は泣くことがあるか」と質問します。泣くことは人間の情緒的資質としてとても重要だと彼らは考えているようです。

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