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王国名残の地割制をポスト資本主義はどう読んだか(予告編)|Critique

田村浩(たむらひろし 1886年~1945年)は、『琉球共産村落之研究』を1927年に著した人物。群馬県生まれの彼は、1922年に沖縄県に赴任し、数年の滞在期間中、沖縄の農村の歴史や経済、産業を調査研究した。

『琉球共産村落之研究』では、沖縄の村落社会を独自の視点から分析し、琉球王国時代の村落共同体における原始共産主義的な要素を論じている。村全体で土地が共有されていて、土地の分配は村の長老によって行われ、住民は収穫物を村全体で貢租として納めた。貢租の額は村の規模や生産量によって定められていた。

住民は平等の権利と義務を持ち、物々交換を基本とした経済活動が行われ、共同浴場や教育支援など共同自治の精神が強いと、田村は強調する。共同店についても書かれており、村落の共有財産として運営され、生活必需品を共同購買で安価に購入し、共同で伐採した林産物を販売して収益を生み出している。

仲吉朝助(なかよしちょうじょ 1867年~1926年)は、近代沖縄の産業界の論客で沖縄研究者でもあり、『琉球の地割制度』(1928年、実際は論文連載)の著者。首里の士族に生まれ、県庁吏員となり土地整理事業に従事した。その後民間に移り、沖縄県農工銀行頭取などを歴任するが、人間関係から要職を追放される。晩年に返り咲き、首里市長などを務めた。

琉球王国の地割制は、石高制に起源をもつ本土とは異なり、土地の分配と管理を行うための制度であり、特に農地の効率的な利用と労働力の有効活用を図るために設けられた。『琉球の地割制』は、この制度の運営方法や社会的・経済的な影響及びその歴史的な変遷について記述している。

仲吉は、この制度の構造や運用方法、地域ごとの違い、さらには地割制が持つ社会的な意味合いについて考察している。また、土地所有権の問題や農業生産の配分、税制との関係性など、地割制が琉球の社会階層や経済活動に与えた影響、地割制の歴史的背景や発展過程についても分析している。


これをポスト資本主義の文脈で読むとこうなる。

田村浩の『琉球共産村落之研究』と仲吉朝助の『琉球の地割制』は、いずれも沖縄の歴史的な土地制度や村落構造を分析し、これに共産的な要素を見出している点で、現代のポスト資本主義の議論と多くの共通点を有している。彼らの研究が示すように、土地の共同所有と再分配、資源の共同管理は、経済的平等を実現するための有力な手段であり、これらは現代のポスト資本主義社会の構築においても非常に重要である。

田村の研究は、現代の資本主義が抱える土地の私有化や集中化の問題に対する有力な代替案を考える契機となりうる。田村が指摘するように、土地の再分配と共同管理は、経済的な平等と持続可能な資源利用を促進する手段であり、これは斎藤幸平の「脱成長コミュニズム」の理念と一致する。この研究は、現代の資本主義を超えるための歴史的なモデルとして再評価されるべきである。

仲吉の研究は、地割制が農地の効率的な利用と農業生産の安定を図るために機能していたことを示しており、斎藤幸平が主張する「コモンズの再生」と非常に近い概念で、地割制が捉え返される。土地私有や税制との関係性など、資本主義経済が抱える多くの問題を考える際に、仲吉の研究は示唆に富む。


沖縄のかつての地割制については、起源を古琉球に求めるか、近世に求めるかという考え方の違いがある。また、土地という家産の私有が認められなかったがために「家」の意識が弱く、ユイマールのような互酬的な経済システムが発達したという論調が根強い。

実はこの2冊の古典は、原著ではなく引用された資料しか読んでいないので、今よりももっと暇になったいつか、この話題をじっくり掘り下げたい。


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