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運河をまたいで 長崎県美術館(建築物語#12)

日本では珍しい、運河をまたぐ美術館建築を紹介します。

場所は、長崎県長崎市。長崎駅から路面電車に乗り、出島電停駅より徒歩3分にあります。

設計は隈研吾さんと日本設計(大手組織設計事務所)の共同設計です。竣工は2005年。延べ面積9,900㎡のわりと大きな県立美術館です。

このころからでしょうか、規模の大きな建設事業になると、デザインは建築家が担当し、実施設計は大手の組織設計事務所やゼネコンが請け負うという設計分業スタイルが散見されるようになりました。

餅は餅屋と申しましょうか。デザインが得意な建築家が施設のビジョンやプラン、仕様を決める基本設計を担当し、建物の性能や詳細納め、法律関係を調整する実施設計を組織設計が担当するという適材適所の設計スタイルでできた美術館です。

あ、全部書いてから気づいてここで言いますが、今回はディテール系が多めです。


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教育部門、常設展示部門、企画展示部門の3つのゾーンを、ブリッジでつないだ明快な構成になっています。他の部門に行くためには、必ずブリッジを通らなければならないので、ブリッジの空間は重要ですね。

あと、法規的にどうなっているのでしょうね?百貨店がたまに道路をまたいだ上空通路をつくっていますが、あれは許可申請といって特殊な建築基準法、条例、消防法などをクリアして建築できるようになっています。

この美術館の場合、建築主と運河の所有者が県ということも考えられますので、許可条件は、、、? 話が複雑になるのでやめましょう。


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内部の写真。ブリッジはミュージアムカフェになっていて、何度も往復するので中継点の休憩所としてとてもよいプランだと思います。

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ブリッジを外部からみた写真。軽快なガラスボックスですね~。鉄骨のルーバーがいい日よけになっています。


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このブリッジは、吊り構造になっていまして、屋根から床スラブを吊っているので、床がとても薄くなります。また構造自体も窓側から見えないデザインになっているので、浮遊するガラスボックスが実現できているのですね。

天井の構造体となる鉄骨は、そのまま外部にはね出して、日よけとなるルーバーになっています。


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サッシの方立(サッシを受ける縦材)もガラスとスチールの複合材となっていまして、ガラス受けは小さな金物で支えています。そうすることによって、よりガラスの箱っぽく見せています。


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川から見た外観写真。石のルーバーが印象的ですね。ルーバーを密にして、石の外壁っぽく見せることによって、ブリッジの浮遊感が高まっています。


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花崗岩のルーバーは、鉄骨で受けています。石だけでは壊れてしまいますから、鉄骨でしっかりと受けています。

ところで、石材はヨーロッパで多く使われています。古くは教会建築など、石材自体が構造体となっています。大きな石を積むことによって、構造を成り立たせています。つまり、石は積むわけですから、地面にしっかりと着いていないと構造的におかしいわけです、石造においては。つまり、デザイン的には重厚に見える。それが脈々と今日まで続いて、石を使うなら重厚に見せようとするのが通例です。

この建築は、石をあえて軽いものとして見せている。当然、構造とは関係のない部材ですから、「それならば軽く見せよう」という、当時としては結構斬新なデザインなわけなのです。

現在では、タイルや石など、本来は積み上げるものも技術的に浮遊させることが一般的になりつつあります。しかし今でも、年配の設計者の中には、まだ石は重いものだから、デザインとして重厚に見せるべきだという人もいます。


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道路から見た外観写真。この施設は、東西南北4面とも道路になっていますので、すべての面の外観に美しくみえるようデザインされています。

奥行きの大きな、鉄骨の庇が印象的ですね。


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鉄骨庇の見上げです。メタルワークが美しいですね。先端に近づくにしたがって、部材が細くなっています。まるで、社寺などの日本伝統建築の軒先組手を見ているみたいです。


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石の仕上げが、鉄骨の編み物のようなルーバーに入り込んでいるディテール!これ、この施設で一番興奮したディテールです。


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細い柱も、石仕上げになっていますので、石を軽く見せています。鉄骨庇は、ブリッジと同じように、エントランスホールの内部空間まで連続しています。


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エントランスホールでは、鉄骨はルーバー天井となって、ルーバーの間に照明器具や防災設備など設備機器が収められています。大きな吹き抜けにゆったりとした大きな階段があります。


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階段を軽く見せている手すりのディテールです。DPG金物で強化ガラスを支えているデザインです。まあまあ良く見るデザインです。


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施設名称のサインですね。シンプルなフラットバーで名称を見せています。建築のルーバーのデザインにリンクしています。


長崎県美術館は、ブリッジのガラスボックスだったり、浮遊する石のルーバーだったり、見事なメタルワークだったり、こう見せたい!というデザインが明快な建築でした。同時に、デザインは美しく収められており、エンジニアリングの細やかさが感じられる施設です。

建築家と、組織設計の分業スタイルが、それぞれ独立して勝手に設計が進んでしまうのではなくて、相互に絡み合うような、なんかいいチームが想像できた建築でした。


ちょっと今回は見所が多かったので長くなってしまいました。読んでいただきまして、ありがとうございます。


ぱなおとぱなこ

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