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「求める医師像」を共有してますか?

 前回、医師の早期離職の問題は、その医師の価値感を考慮せず、入職先の組織風土も無視して斡旋するエージェントにあると述べました。しかし、求人側に全く問題がないわけではありません。

「採用リテラシー」の低さも、早期離職の問題のひとつ…

 病院の多くは、医師採用を「忙しい事務長」が対応します。しかし、医師以外にも看護師紹介などの電話が一日に数十本はかかってくるので、まともな対応は望めません。まれに医師専任の担当者がつくこともありますが、担当者の権限が窓口機能だけに限られると、病院の詳しい実情が判るのは見学面談になります。ほとんどの病院は十分な情報開示や発信をうまく行えていません。

 たとえば、曖昧な求人票がトラブルになるケースがあります。紹介会社から医師の応募があったと電話があり、幸運にも医師面談へと進みました。ところが病院側で明確な求人票を作っておらず、エージェントは過去にヒアリングした内容で変わりがないかだけ聞いて、医師に説明します。エージェントと病院採用担当の双方が求人内容の最終確認をしないまま面談を行います。最終の院長面談で「情報の齟齬」が露見するという「背筋の凍る話」です。その場を取り繕って入職となっても、応募医師は不信感を抱くでしょう。これでは「採用リテラシーが低い」と言われても何も言い返せません。

 求人票には問題がなくても「求める医師像」が、経営トップと事務長、現場で共有される病院は稀有です。これは年俸額や勤務日数など、数値で表現できない条件で、求人票でもあまりお目にかかりません。医師の採用計画も、経営トップの頭の中にしかないようです。
 ほとんどの病院は医師の応募、まして面談の機会は滅多にありません。このため医師の採用基準は緩くなりがちで「面談時の感触」で経営トップが採用を決めてしまいます。

 このように「求める医師像」や経営計画が共有されず、安易に採用されてしまうと、医師が現場に配置された途端「カルチャーショック」を受けてしまいます。面談で聞いてない仕事や、その医師にとっては理解不能な「ローカル・ルール」が現場で求められるからです。さらに入職後の医師に対するサポートが不十分なら、これに耐えられず、その医師が「早期離職を決意」しても、もう止めようがありません。

エージェント丸投げの「ギャンブル面談」は止めましょう

 医師不足につけ込んだ「悪質」な医師紹介会社は淘汰されてしかるべきです。
エージェントには、高額な紹介料に見合う働きを要求すべきです。それでも不満は募ります。賢明な採用担当者なら、医師採用の前段階を一度見直してみてはいかがでしょう。

 まずは離職防止の手立てを講じてください。
医師が流出する理由に対応したうえで、自院が求める医師像を明示します。病院の理念や組織風土、目指す医療の方向性など「定性的な情報」を自院ホームページなど「オウンメディア」で積極的に発信しましょう。まともな医師は、面談候補先のホームページを閲覧して自分との適性を考えています。「求める医師像」や採用計画も共有せずに、エージェントに丸投げの「ギャンブル面談」を繰り返すのは、時間とコストの浪費でしかありません。

 加えて、入職後の医師のフォローアップ支援に取り組むべきです。
確かに医師はプライドが高く、事務方からは扱いにくい側面もあります。しかし、希少人材に高い費用をかけて採用する一方で、入職した医師へのケアやサポートは不十分だと感じます。エージェントにも入職したら一件落着ではなく、せめて3か月くらいは連絡・フォローをしてほしいものです。

転職前に、スポット非常勤で職場の雰囲気を知りたいが…

 もし先生が転職する際に1年以上の余裕があれば、スポットや非常勤で病院をいくつか回ってみて、予め実情を偵察しておくのは良い方法です。
(入職直近の3か月にバイトしたいという希望は、まず通りません)
 こうした機会を提供してくれる病院は主流ではなく、交渉しても受けてもらえるかどうか判りません。

次回<医師不足につけ込む紹介ビジネス>では、紹介手数料の仕組みと、残念なエージェントの関係を明らかにします。


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