救いと偽善
これは私が聞いた話です。
彼はテレビ番組の作成にかかわる仕事をしていました。ある日番組で、樹海に入り探索をする企画に参加したそうです。樹海の中にはやはり自殺跡が多く、放送できるかどうかギリギリのところだったそうです。しかし、番組プロデューサーは取れ高があるとのことでそのまま続行されてしまいました。
樹海の中にはたくさんの遺留品がありました。たくさんの方に謝罪している遺書や、生活用品がありました。モザイクを入れると言って発見された白骨死体も映していました。
撮影している方々は、気分が悪くなり引き返す人もいたそうなのですが、彼はそのまま進んでいきました。すると、ブルーシートを敷き木に縄を結んでいる男性がいました。まさに彼は今死のうとしている場面でした。地面にブルーシートを敷いているのは、発見された際にあまり汚れず片づけやすくしているという配慮なのでしょう。
彼は、急いで男性をとめました。
「待ってくれ。何でそんなことをしようとしているんだ?」
問いかけに対して男性は、
「もう俺には何も残っていないんだ。このまま終わらせてくれ。」
と返してきました。しかし、プロデューサーはこれをとめたら視聴率が上がると言っています。彼はこんな時に不謹慎なと思いながらも男性をとめることには賛成でした。
「落ち着いて。これからでもやり直せるよ!一度家族に電話してみないか?」
と言うと、男性は思いとどまったのか携帯を取り出しました。番号を押して電話がつながるのを待っていると、男性の母親につながったようです。しかし、電話の相手がこの男性だとわかると母親はすぐに電話を切ってしまいました。
「やっぱりだめだ。」
男性は再びあきらめ顔に変わります。
「気づかなかっただけかもしれない!もう一度別の人にかけてみよう。」
彼がそういうと男性は父親に連絡しました。すると、電話は繋がりました。スピーカーにしてもらい彼と番組スタッフも話を聴きます。男性の父親は、
「お前か!今更何の用だ!二度と声も聴きたくない!」
と吐き捨てたのです。彼らは驚き電話を変わってもらい話を聴いてみました。男性の父親は、
「こいつは、働きもせずに家で暴力をふるうんだ。しかも勝手に借金2000万円を作りそれを私たち家族に押し付けたんだ。帰ってきても迷惑だし、死んでもらった方がましなんだ。」
と言って電話を切りました。
彼らは絶句してしまったそうです。どうしたものかと考えていると男性が、
「まだ俺のことを気にかけてくれる人がいて良かった。もう一度やり直してみる。」
と言って帰っていきました。
この番組企画は、お蔵入りになったそうです。彼はその足で仕事を辞めたそうです。プロデューサーは人の命よりも取れ高を取るという姿勢も精神的にやられたそうです。何よりも自分のやったことは正しかったのか今も悩んでいて僕に話してくれたそうです。
いかがでしたか?皆さんは彼のような場面に立ったらどうしますか?人の気持ちや現状を理解することはできません。男性にとっては救いだったけれど、男性の家族からすると偽善になってしまいます。社会はこうして冷たくなっていくのでしょう。