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僕が「法律の話をしない弁護士」になった理由

僕のこれまでの道のり(グラレコは松本智子さん)


法律の話をせずに、法律の問題を解決する

僕は、企業法務弁護士という仕事をするにあたって、

① 本当の課題をつかまえるまでは、出来るだけ法律の話はしない
② 法律の世界のことは、ビジネスの世界の言葉にコンバートして伝える

ようにしています。極端な場合には、ご相談の最初から最後まで、ほとんど法律の話が出てこないこともあります。「法律の話をせずに、法律の問題を解決する」というのが僕のスタイルです。


法律の話ばかりしていると、本当の課題を見失う

僕が仕事において法律の話をできるだけしないようになったのは、企業で勤務していた時のある”気づき”がきっかけでした。それは、法律の話ばかりしていると、本当の課題を見失うということです。

例えば、契約書の本来の意味は、企業のお客様に対する「約束」です。つまり、契約書作成の本当の課題とは、企業がその価値観や戦略に基づき、お客様に対してどのような「約束」をするのか、ということにほかなりません。

ところが、法律の話に終始していると、次第に「法律の規定と比べて有利か不利か」という点にばかりにこだわるようになり、契約書はお客様との「約束」であるという本当の課題を見失ってしまうということがあります。

どうやら、法律の話、特に弁護士がする法律の話には、「法律こそが公平性の基準であり、それに即してビジネスをすべき」という「法律の世界観」でその場を染め上げてしまう、という困った副作用があるようだ、ということが分かってきたのです。


正しいことも、伝わらなければ意味がない

もう一つの大切な気づきを与えてくれたのは、企業法務弁護士として大失敗した経験です。

2014年、僕は法務部門の一員として、事業部門の担当役員に独禁法コンプライアンスの新しいルールの概要を説明することになりました。当時弁護士8年目で、仕事にもそれなりに慣れてきていた僕には、「独禁法についてロジカルに説明すれば、きっと伝わるし、うまくいく」という先入観がありました。

そして僕は意気揚々と、「新ルールはカルテル防止のためのルールです。カルテルの成立には意思の連絡と相互拘束の2つが必要で、このうち意思の連絡の存在を推定させる要素として情報交換の取り扱いが重要なのです」と説明しました。

ところが、これが失敗でした。

説明を聞いた担当役員の表情はみるみる険しくなり、最終的には「君の説明はまったくわからん!」と叱られてしまったのです。結局、説明は後日に持ち越しになり、結果として新ルール導入スケジュールも後ろ倒しになってしまうという始末。

法的に正しいことと、それが相手に伝わるかどうかは全くの別物です。どんなに正しいことも、相手に伝わらなければ意味がありません。法律の世界のことを、法律の世界の言葉を使って説明したって伝わらないんだ。相手が生きている世界にコンバートして初めて伝わるのだと、思い知りました。


「熱い想い」への共感を大切に

僕は、「法律の話をせずに、法律の問題を解決する」ために、どんな仕組みで儲けが出るのか、ライバル会社にはない強みは何なのか、創業者の方やそれに連なる皆さんの「熱い想い」について徹底的に伺うようにしています。

そのため、時には、お客様の社内に席を作っていただき、出向のような形でオンサイトで業務を行うこともあります。「法律の話をせずに、法律の問題を解決する」には、お客様の事業内容や、パーパスや企業理念、組織風土、働く人びとの価値観への深い共感が不可欠だからです。

実は、お客様に深入りすることなく、法律の話に終始するほうが遥かに楽だし簡単です。「弁護士がそう言ったから」という事実には、ものごとを押し通す目に見えない力があり、それで何とかなってしまうことも多いからです。

「三浦さん、そこまで考えなくても、ひとこと『問題ない』というコメントだけくれればいいよ」と言われることもあります。しかし、僕は法律という権威を振りかざす外部のご意見番ではなく、お客様と一緒に課題を解決するチームメイトになりたいのです。

そんなことを考えながら、日々仕事をしています。




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