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冬の嵐、娘との朝。

今日は風の強い日だった。

毎朝自転車で娘を送るのだが、今日は安全に送り届ける自信がなかったので徒歩で行くことにした。娘は「じてんしゃがいいー」と言ったけれど、外に出てびゅうううと風に吹かれたら、黙って手を握って着いてきた。

私は雪国育ちなのもあり、吹雪で登下校した経験も幾度となくあるので、「雨も雪もなく単に風が強いだけ」なら割と平気である。けれど南国育ちの娘は終始「こわい」と言い、園につくまでずっと、私の手にしがみ付いていた。

「わー、ほら袋があっちに飛んでいくよ」
「ひゃあー、走りやすいねぇ」

私が何を言っても「いやだ」「こわい」と半泣きだ。しまいには両手で私の片手をつかみ、横歩きで歩き出した。

正月明け、まんまるの顔して実家でおまんじゅうを頬張る娘に「なんて大きくなったの」と思ったけれど、今私の右手にしがみ付いている娘はまだまだ小さい。駆け抜ける突風に身を縮め、ばたんばたん鳴るトタン屋根に悲鳴をあげ、「手を離したら飛べそうだねぇ」という私の冗談に「いやだとびたくない」と本気で嫌がる。

「大丈夫。お母さんついてるから」

普段はそう言えば落ち着くのだけれど、今日はその効果もかき消されてしまっている。
でも幼稚園に行きたくないとは一言も言わず、大好きな先生やお友達や給食のピザパンを胸に抱き、私の手を頼りに歩いてくれた。

怖いよね。飛ばされそうだよね。
でも、進めば必ず、目的地に着ける。
お母さんがついてる。

「歩いてきたんですか、大変でしたねぇ」

車社会では「歩く」という行為だけで驚嘆されることがままあるが、今日もやはり大変がられた。
確かに髪はぐちゃぐちゃで時間は普段の倍ほどかかったけど、車でスイと登園していたら、娘と手を繋ぎ続けた30分は存在しなかったのだ。

「まぁ、何とか無事に来れたので大丈夫です」

怖くても、ちゃんと自分の足で園にたどり着いた。
娘は放心状態ながらも、「歩いてきたんだ。えらいねぇ」という先生の声かけに、真っ赤な頰してこくんと頷いた。

たまには、こういう日があってもいい。
毎日はちょっと。

まぁ、たまにはね。


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