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【掌編】魔法の正体

 世の中に魔法はある。
 あると早速断定してしまったが、実際にあるのだからしょうがない。それは魔法〝的〟でもなく、魔法〝のようなもの〟でもなく、正真正銘の魔法なのだから私ははっきりと魔法は現実にあるとここに言い切ってしまうのだ。
 文明化が進み、テクノロジーが発展した現代で何を魔法だなどと宣っているのだと思うかもしれないが、今から私がその秘密を明かすので少しばかりの時間でいいから耳を傾けてほしい。
 我々は人間、である前にそもそも生き物だ。思考したり誰かとこうやって話をすることによってその前提を忘れてしまっているが、我々は動物や植物と何ら変わらない生物なのだ。耳を傾けた割にはそんな当たり前の話かと呆れて立ち去ろうとしたかもしれないが、ここから最終的にはちゃんと魔法へと繋がるのでもう少し辛抱してほしい。
 まず植物。植物は日光の当たり具合や土壌や堆肥の影響で、ある場所には決まって同じような植物が群れを成して生きている。美しい花ばかりが咲く土があれば、雑草ばかりが成長してしまう場所がある。人間で言い換えると、容姿ではなく心が清らかな意味での美男美女が付き合ったり、大勢の怖い若者がコンビニの駐車場で騒いでいるような感じと言えばいいだろうか。このように人間である前に生物である我々も同じで、ある意志を持った人物は似ている意志を持つ人と惹かれ合ってしまうのだ。つまり意志は植物でいう堆肥で、意志によって出会いは決まっていると言っても過言ではない。
 しかしそれとは別にして、美しい花の蜜を吸いにくる蜂もいる。例えば君の周りには外出すると高確率で変な人に遭遇してばかりの人はいないだろうか。またこの人が来店すると他のお客さんがどんどん入り込んでお店が混雑してしまうというような人物。そんな縁を引き寄せてしまう不思議な力を持つ人がいる。
 意志と縁。これが我々の人生を大きく左右する要素であり、つまるところ魔法の正体なのだ。同じような意志や思考を持った人間は自然と出会って仲良くなり、好きな音楽や映画などの趣味も不思議と似通っていく。
 だけど自分には合わないと思うような人に出会った場合も親交を深めることを諦めないでほしい。なぜなら動物は環境に適応できるのだから。ラクダが暑さの中で体内の水を逃がさないために体温を調節するように、動物には適応能力と環境に合わせた進化がある。
 だから最初はキモくて話が長い嫌な人だなと思っても、話しているうちに意外と芯があって考えがしっかりしているなと思うこともあるだろうし、いや実際これだけのこと考えている人はいないだろうし。君とは好きな映画が同じで、それに普段聴いている音楽も似ていると分かったから、それはつまり人生で楽しむべきポイントが同じだったというわけで。そもそも今夜こうしてここで出会えたことが意志が同じで、我々は生物として同じ土壌で生きていて堆肥が対比されているわけではなく、あ、堆肥が対比と図らずも面白いことを言ってしまったね。これも偶然が生み出した魔法と言っても過言じゃないから、え、指名があって違うテーブルに行く? じゃあ今日は何時終わりかだけ教えてもらっても......
 
 そんな話を延々とするオッサンがいてウザかったから、店長に頼んで店出禁にしたよー。出禁という魔法発動〜。

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