就労支援、人を肯定するということ

職場のこと。
ある職員さんから相談があった。
自分の担当している利用者さんに関して。
就労支援A型を目指している男性。今はB型で工賃を稼いでいる。
本人はA型就労を目指して、もっと給料を稼いでいきたいと思っている。
彼のバックボーンには、学生時代から10年続いた引きこもり、就労経験も乏しく、短期のバイトをしたり、工場で働いたり。でもすぐに辞めてしまった。そんな中、自分の勤める障がいサービス事業所の利用者として入ってきた。
面談時に彼は言った。「私をA型にしてくれないのはなぜか」「他の子より仕事が出来るのに」さらに
「障がい年金が受給されたらお金がもらえるから、いまのB型でも良いと思ってる」「でも、もらえなかった場合はA型にしてもらって給料を稼ぎたい」
職員はショックを受けたと話す。
社会にもまれていない分、仕事に対する「厳しさ」が欠けている。彼のA型を目指して就労支援に当たっているが、最低賃金がもらえるA型の就労はハードである事、でもちょっと今よりステップアップした仕事を提供した途端、「昨日はしんどかった」と話されたり、次の日に事業所を休んでしまう。
「年金もらえたら稼がなくてもお金が入るからそれでいい」なんて、思っていても口に出さないのが一般的な常識(非難を受けるかな?と考えないのか)面談時にそういったことを口にすること自体、彼がズレているのではないかと・・・。仕事を、世の中をなめてるんじゃねえ!と言いたくなるとの事だった。「あの子より自分の方が仕事をこなしているのになんで・・・?」なんて言葉を言う時点で、人との関係やかかわりの中で生きてきていないように感じたと。その通りと思う。人には人の目標がある。自分は自分で頑張れば良いじゃないかとはならない事がおかしい。

ここからは自分が感じたこと。
ではどうしたらよいか?

彼をとことんまで肯定したら良いのではないかと思う。彼の良い部分・悪い部分ひっくるめて肯定してあげたら良いと思う。
「年金もらえたら稼がなくてもお金が入るからそれでいい」
その通り。若い頃は遊びに行きたいし、ギャンブルや異性との交流にもお金がいる。大いに遊んで楽しく過ごすにはお金がかかる。日本の社会保障なんて、自分の為にある物と思ったら良いんだ、大いに利用していけよ。
とにかく不道徳なこと、不義理なことであっても、100%肯定してあげることが大事。なぜなら、彼にとってそんなこと言ってくれる人が今までいなかったから。自分を肯定してもらった経験が極端に少ないから。
そういった経験が、初めて彼が少しずつ変わるきっかけになるのではないか?そこで初めて自分だけじゃなく、「他人を視る」事になるんじゃないか?そうアプローチしていくことで、そしてそういった職員とのやりとりのなかで、彼がはじめて自分の周りを、人を「視る」きっかけになるんじゃないのかな?

常識で考えたら、確かに彼は仕事をなめてるし、少しでも楽にお金が入ったらいいと考えるのは甘いこと。社会はそんなにぬるい状態で生きていける物ではない。そういう意味で福祉を「利用」することは良くないことかもしれない。
でも、その良くない(と思われる)ことすら認めてあげることは、彼にとってかけがえの無く居心地が良く、嬉しいこと。なぜなら社会で肯定してもらった経験が無いから。認めたら彼もこちらを認めてくれる
。そこで初めて自分の思いや発言に目を向けてくれる。

まずそこからがスタートだと、自分は思う。

ただこれを実行するにはその職員自身の相当な自信と覚悟が伴う。価値観を押しつけないこと、そして彼の1年先、2年先でなく、もっと遠い未来を見据えてアプローチすること。

正論なんて誰にでも言える。
大事なのは、いかに「その人」の立場に立って主張できるかということ。そして良くも悪くもその人らしさを認めてあげることだと思う。

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