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[書評] ウェストファリア体制 天才グロティウスに学ぶ「人殺し」と平和の法

みなさん、こんにちは。Naseka です。
私は 哲学者・エッセイスト として、
自らを定義しています。

書評は今回で4作目。
前回の書評の冒頭で触れた
「倉山満氏の別の著書」である。

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さて、みなさんは
「ウェストファリア(ヴェストファーレン)条約」
および それによってもたらされた秩序
「ウェストファリア(ヴェストファーレン)体制」
というものをご存じだろうか。

中学?高校?で学ぶ 世界史の教科書にも、
必ず 出てくる(いた)はずだ。
(あなたが習った記憶があるかはともかく)

↓ 例によって Wikipedia リンク

ヴェストファーレン条約(ヴェストファーレンじょうやく、: Pax Westphalica、: Westfälischer Friede)は、1648年に締結された三十年戦争講和条約で、ミュンスター講和条約とオスナブリュック講和条約の総称である[1]ラテン語英語読みでウェストファリア条約とも呼ばれる。近代における国際法発展の端緒となり、近代国際法の元祖ともいうべき条約である[1][2]

この条約によって、ヨーロッパにおいて30年間続いたカトリックプロテスタントによる宗教戦争は終止符が打たれ、条約締結国は相互の領土を尊重し内政への干渉を控えることを約し、新たなヨーロッパの秩序が形成されるに至った[1][2]。この秩序を「ヴェストファーレン体制」ともいう。

ヴェストファーレン条約 - Wikipedia より

今回の本を読んだ後だから言えることだが、
たしかにこれは世界史における
非常に大きな転換点だった。

だが、学生時代(~本書を読むまで)の私には
その意義が全くと言っていいほど
理解できていなかった。

私は大人になってから 世界史の本を読んできて、
しばしばこの
「ウェストファリア(ヴェストファーレン)…」
の言葉に遭遇してきた。
それらの文脈によれば、
何やら非常に重要なものらしい。

私は学生時代から世界史が好きで
授業もよく聞いていたし
(少なくとも、理系にもかかわらず
 センター試験の最高点が世界史だった程度には)、
その頃から 教科書であれ 資料集であれ、
興味を持って読んでいた。

そんな私が その中身も重要性も
全く理解できなかった「ウェストなんたら」とは、
いったいどれほどのものだというのだろうか。

この疑問が、本書を読むに至った理由である。


昔と今の「当たり前」

この本の前半は、
フーゴー・グロティウスについての
解説が並ぶ。
彼の詳細は本書と Wikipedia に任せるが、
ポイントは
彼の著作戦争と平和の法の内容が
いかに革新的であったかということだ。
(煩雑になるので、
 各単語に Wikipedia のリンクを貼っておいた)

突然だが、あなたは次の命題についてどう思うか?

・心の中では、何を考えていても自由である。
・(戦争は別にして)人を殺してはならない。
・戦争にも守るべきルールはある。
・国家はその規模の大小にかかわらず、
 お互いが対等な関係である。

(本書から Naseka なりに抜粋・意訳) 

革新的な発想だと思うか?至極 当たり前と思うか?
私は この本を読むまでは後者だった。
当たり前すぎて、
そもそも命題として意識したことすらない。

だが、400年以上前の世界において
これらの命題は
「当たり前ではなかった」のである。

当時の「当たり前」の感覚は

・思想が違うことは 許されることではない
・思想が違う人は、殺さなければならない
・↑ というより、思想が違うものは
 そもそも「人間ではない
 (人のかたちをした別の何か)」
 (故に、異端者は殺さなければならない
・所詮この世は弱肉強食。
 どんな手を使ってでも勝ったヤツが偉い
(負けたヤツが悪い)。

(本書から Naseka なりに抜粋・意訳)

どうだろう?言っている意味が分かるだろうか?
本書を読む前の私だったら、
これだけ示されても理解ができないと思う。
(一番最後だけ、かろうじて)

400年以上前の世界(欧州が中心ではあるが)で、
何が当たり前とされていて、
当時の人たちが何を考えて生きていたのか、

それらが本書では解説してくれている。

そして、その
「現代とは違う『当たり前』」の世界を理解すると、
グロティウスの「戦争と平和の法」の革新性、
そして
「ウェストファリア(ヴェストファーレン)体制」
の意義が理解できることと思う。

それほどまでに
現代に生きる私たちの
「当たり前」につながる道を示した
 のが、
「グロティウス」であり
「ウェストファリア(ヴェストファーレン)体制」なのだ。

長年の疑問がパッと解ける

世界史を学んでいて
「どうしてこうなった」
「なんでこんな風になったのだろう?」

と疑問に思ったことはないだろうか。

自身の感覚では
「そんな不合理なことをする意味が分からない」
「普通に考えて、そうはならんでしょ」

というようなこと。

もちろん歴史にも「偶然」というものはあるし、
「偶然」が重なったことで
世界史上に残る大きな事件に発展していくことも
たしかにあったことだろう。

しかし、たいていの出来事には
それ相応の理由がある。

国が勃興した理由、
戦争を起こすに至った理由、
革命が起きた理由…

みなさんも、ものごとを学ぶにあたっては
表層だけでなくその背景も理解すると
理解も記憶もしやすいことと思う。

この本を読めば、
当時の人たちが何をどのように考えていて、
その結果(歴史)に至ったのか
 が、
格段に頭に入りやすいだろう。

私もこの本を読んだことで、
長年 抱えていた疑問がパッと解けた感覚を覚えた。

まとめ

どんな難解な問題よりも...というのは
言い過ぎかもしれないが、
「当たり前」なことほど認識が難しいものはない。

だから昭和を生きてきた人間の当たり前の感覚が、
平成に生まれ育った人が増えた
令和の世で問題となる。

それが400年以上前の世界ともなれば、
その「当たり前」の違いは
我々の想像を絶するものがあるだろう。

古今東西で「当たり前」とは
これほどまでに違うものなのか!?

そんな驚きと気付きを与えてくれる、
非常に啓蒙的な一冊である。

こんな人にオススメ!

・世界史に興味がある人
・なぜ現代社会が
 今のような かたちになったか知りたい人
・「当たり前」の変遷に興味がある人
・忌憚のない批評が好きな人

こんな人には合わないかも…

・世界史に興味が微塵もない人
・鋭い表現が苦手な人

お読みいただき、ありがとうございました。

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