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[書評] 運を育てる ~肝心なのは負けたあと~

みなさん、こんにちは。Naseka です。
私は 哲学者・エッセイスト書評家 として、
自らを定義しています。

今週私は「また」これ読んだ。
何度も読み返している座右の書である。

私は将棋に関しては
有段者と名乗る資格こそ持っているものの、
実際に指すのは からっきしである。
ペーパードライバーならぬ
ペーパー有段者といったところだ。

あまりに自分が
将棋に向いていないことが分かったので
今や指すのも観るのも距離を置いてしまったが、
「将棋をやっていてよかった」と心底思えるのは
この本と出会うキッカケをもらったからである。


米長邦雄という男

この本は 故・米長邦雄 永世棋聖が
50歳直前にして
初の名人位を獲得した頃に
書かれたエッセイだ。
(50歳での名人在位は
 2024年現在も史上最高齢記録)

この米長氏は、非常に面白い人物である。

その端正な見た目と爽やかな性格に反して、
「泥沼流」と言われる
逆転術に定評のある棋風で知られる。

盤外においても
「お色気」エピソードには事欠かないし、
将棋さながらのキレ味鋭い発言も多い。

「三人の兄は馬鹿だから東大に行った。
 私は頭がよいから将棋指しになった。」
という発言(※)は ファンには有名な話だし、
日本将棋連盟会長職に就きながら
うんこなう」と発信する大胆さも兼ね備える。
(※ 本人曰く、故・芹沢九段の作り話。
 「このような ”本当に思っている事” を口にするわけがない」とのこと)

指した将棋においても名局は多いが、
私は このスケールの大きな人物像故に
米長氏が 全棋士の中で最も好きである。

ちなみに余談ではあるが、
棋譜鑑賞で最も好きなのは
大山康晴 十五世名人だ。
その大山名人とも百番指しをしているのだから、
棋士としての米長氏も やはり偉大なのである。

勝利の女神に好かれるために

さて この本であるが、
プロ棋士になって30年間で
過去6度も名人戦の挑戦者となりながらも
名人位に就けなかった氏が、
勝負師として
「勝利の女神に好かれるためのノウハウ」
を記したものである。

勝利の女神は、謙虚と笑いを好みます。

「運を育てる」より

シンプルであり、さりげなく書かれている一文。
だが、この本を極限まで集約すると
この一言に行き着くような気がする。

このうち「笑い」においては、この本の中でも
随所にそのエッセンスが散りばめられている。

非常に重要な哲学を伝えるにも、
その文章は「重厚」というより「軽妙」

氏の最大のライバルといえば、
史上最多(2024年6月現在)の
187局を戦った
中原誠 十六世名人が挙げられるが、
「桂使いの名手」と謳われた
中原名人さながらの軽快さが感じられる。

将棋で例えるなら、相矢倉ではなく
相掛かりや 横歩取りのような印象だろうか。
あるいは 玉頭位取りではなく、
船囲い急戦といったところだろうか。

しかし、プロの将棋は面白いだけではなく
勝たなければならない。

このエッセイも面白さの先に、
勝利の女神に好かれ
人生をより良いものにするための
ヒントが ちゃんとある。

これほどまでに楽しさと人生哲学を
共存させた本が他に在るであろうか。

「惜福」という考え方

氏の座右の銘のひとつに
「惜福」という言葉がある。

明治の文豪・幸田露伴は、その著書『努力論』の中で運命と幸福について、こんなことを語っている。幸福に遭う人の多くは「惜福」の工夫のある人であって、非運の人のほとんどは、その工夫のない人である。「惜福」とは、文字どおり福を惜しむことで、自分に訪れた幸福のすべてを享受してしまわず、後に残しておくという意味である。

「運を育てる」より

「惜福」の工夫のない人というのは、
自分に訪れた幸運を
その場で全て使い切ってしまう。

いきおい
「自分はこんなにもツイている」と
調子に乗ってしまうが、
これは勝利の女神が好む
「謙虚」とは正反対の行いである。

むしろ周りの者から
「なぜ もっとガンガン踏み込まないのか」と
怪訝な目で見られるくらいの人の方が、
勝利の女神の目には「謙虚」と映る。
これが「惜福」の工夫がある人である。

本書では前者の例として源義経、
後者の例として司馬仲達が紹介されている。

あなたにとって、
どちらの人生が幸せと感じるだろうか。
ぜひ本書を読んで考えてもらいたいと思う。

ちなみに氏の著書を読んでから、
「惜福」は私の座右の銘にもなっている。
私の愛用の扇子は、
氏の「惜福」の揮毫が入ったものだ。

まとめ

「勝利の女神」というと
いかにも勝負に限定されるように思えるが、
これは そのまま「幸運の女神」と
言い換えても差し支えはないだろう。

全てを運任せに生きるのもどうかと思うが、
さりとて「人生に一切の運は要らぬ」と
言い切れる者も そう多くはないはずである。

自己研鑽で実力を磨く一方で、
「あなたの人生を少しでも幸せにする考え方」
という視点で
本書を手に取ってみてはいかがだろうか。

少なくともこの本を初めて読んでから10数年、
私は後悔したことは 一瞬たりともない。

何ならこの本のおかげで、
夫婦円満・家庭円満も長らく維持できている。
これも、独身時代のうちに
この本と出会った賜物たまものである。

私は 米長先生には、足を向けて寝られない。

こんな人にオススメ!

・人生を良い方向に持っていきたい人
・勝利の女神に愛されたい人
・軽妙なエッセイを読みたい人
・将棋ファンの人

こんな人には合わないかも…

・運の存在を信じない人
・実力だけで勝負したい人
・「昔ながらの男女の考え方」に抵抗がある人

お読みいただき、ありがとうございました。

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