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「テレビ離れ」とは言うけれど(3)

個人向けWebサイト黎明期

 「日本のように専用回線が高価だと,なかなか自分のサーバを公開するというわけにはいかない。しかしさまざまなプロバイダーが個人用のディスク・スペースを解放したために,ネット上の個人ホームページに人気が集まっている」
 これは、「WIRED(日本版)」1995年12月号の「Internetの個人ホームページ」と題する記事の冒頭の一文です(※9)。この記事では、「個人ホームページ開設数ベスト10」をまとめており、1位のリムネットが(数にして)1666、2位のBEKKOAME/INTERNETが約700、3位のASAHIネットが249、以下4位がTWICS、5位がグローバルオンラインジャパン、6位が東海地域インターネット、7位がNewCOARA、8位がJETON、9位がサイバー・テクノロジーズ・インターナショナル、10位がインターネットWINと続きます。1995年の「WIRED(日本版)」による調査ではこのような状態でしたが、以降、個人向けの「ホームページ」は日本でも隆盛を見せることになります。
 1997年には「ジオシティーズ」が日本法人を設立、日本においても無料の個人向けWebサイトのスペース提供サービスが開始となります(※10)。2008年には——この頃は「Yahoo ! ジオシティーズ」となっていましたが——開設されているWebサイト数が400万件を突破したとの発表もありました(※11)。「Yahoo ! ジオシティーズ」は、2019年にサービス終了となりWebサイトのスペースも完全閉鎖となりましたが(※12)、SNSが発達する前の時代に、インターネット上でのコミュニティ形成に寄与し個人が発信する機会を支えました。
 総務省の平成11年版通信白書では、黎明期のインターネットにおけるコミュニティ形成と個人の関わりや、そうしたコミュニティ形成の事業化について分析しており、その概要には「ジオシティーズ」(アメリカ・日本含む)の名もあります。そして、「個人のホームページに簡単に掲示板機能を付加できるフリーウェアも出回っており、このようなコミュニティ提供の場の増加が、(Webサイトの)(※13)利用人口の拡大に直接大きな影響を与えている。」とし、Webがコミュニティを形成する場となり、個人でもWebサイトを開設しやすくなったことなどが、それらの発展を支えていると結論づけています(※14)。
 1990年代後半、インターネット上のWebサイトは、このように閲覧から開設にわたって個人の利用が拡大しますが、並行して一般企業の利用も拡大していくことになります。平成27年版情報通信白書では、「ホームページによる情報提供を行っている企業」は、1995年が24.0%、1996年が39.6%としています。そして、2001年の企業のWebサイトの開設率は77.7%としています(※15)。この白書の調査からは、1990年代後半における企業Webサイト普及の急速さがうかがえます。

Webサイト黎明期における「動き」「音」

 このような、1990年代後半のWebサイトの黎明期には、現在の「阿部寛のホームページ」のような見た目の個人の「ホームページ」が乱立していました。今となっては、読み込みが一瞬でサクサクと動作するユーザビリティを評価するべきであると考えますが、Webサイトに「動き」や「音」を入れることが当時の「新時代」、「マルチメディア」を象徴する仕草であり、一味異なるサイトの演出にもなりました。今ではブロックされがちかもしれませんが、java scriptによるポップアップウィンドウですら、「飛び出してきた!」というちょっとした驚嘆の演出だったのかもしれません。驚嘆!というと、サイトを開いた途端にオルゴール音が流れ出したりすれば、実際ビクッとしたものです。そうした中、Webサイトに「Flashムービー」を取り入れることは、他のサイトと差をつけることにもなったわけで、ゆえに、企業サイトやテレビ番組のサイトデザインにおいて取り入れられる例もありました。こうして「Flash」の技術は、Webサイトやネットを媒介する動画や音声の領域で、2020年のサポート終了時(※16)まで一定の利用が継続することになります。

動画、音声、「マルチメディア」のゆくえ

 以上のように1990年代以降の情報技術は、「QuickTime」や「Flash」の技術開発に見られるように、初期段階から情報端末デバイスやWeb領域での動画および音声の技術の取り込みが積極的に行われる方向性がありました。こうした「マルチメディア」の象徴として歓迎された動画や音声の技術は、デジタル領域でのコンテンツ視聴の方法に変化をもたらします。まさに「Netflix」のサービスはそのような変化を辿りましたが、DVDなどでレンタルされPCも含む情報端末デバイスで視聴されていた映画やテレビドラマといったコンテンツは、やがてインターネットを媒介して配信されるようになります。

次回に続きます。

[注釈]

(※9)「WIRED」日本版1995年12月号33ページ、「e NEWS」コラム「Internetの個人ホームページ」。4位以下の数は次になる。4位のTWICSが約130、5位のグローバルオンラインジャパンが約100、6位の東海地域インターネットが約100、7位のNewCOARAが約63、8位のJETONが約60、9位のサイバー・テクノロジーズ・インターナショナルが約40、10位のインターネットWINが約20(インデックス登録者のみ)。
(※10)「SoftBank Group」Webサイト>ホーム>ニュース>プレスリリース>詳細>「インターネット上で仮想コミュニティー・サイトを提供するジオシティーズ株式会社を設立」(1997年6月16日)(https://group.softbank/news/press/19970616)
(※11)ITmedia NEWS>ネットの話題>「Yahoo!ジオシティーズ」400万開設突破 増加ペースは11年間変わらず(https://www.itmedia.co.jp/news/articles/0807/30/news039.html)
(※12)ITmedia NEWS>速報>「Yahoo!ジオシティーズ」終了 「貴重な資料消えた」──ネットから惜しむ声.(https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1904/01/news095.html)
(※13)カッコ内は筆者による補足
(※14)総務省Webサイト>平成11年版 通信白書>第1章 特集 インターネット>2 社会活動(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h11/html/B1321000.htm)
(※15)総務省Webサイト>政策>白書>27年版>企業ホームページの普及>第1部 ICTの進化を振り返る>1節 生活の隅々へのICT利活用の浸透>(2)企業ホームページの普及(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc121220.html)
(※16)前回記事「「テレビ離れ」とは言うけれど(2)」の(※8)に同じ。

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