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掌編ファンタジー小説「異世界伝聞録」その11

運命を、あなたは信じるだろうか?


私はフェイミィ。通り名は“見えざる大魔導士“。

私の声は聞こえない。

私の思考は読めない。

私の意見は動かさない。

私と私の時は永遠で、

それは無垢な形で、

一切の妥協なく、究極のただ一点を転ずる。

幼少の折には美術品のようだとも目された。

肌は白磁、瞳はアクアマリン。

言葉は雨と虹を呼び、木の樹皮を撫でれば、枝から蕾が花開く。
 
当然の如く完璧に完全無欠な在り方をポリシーに生きてきた。
 
万の賛辞は恥じらいを霞め、私は病も寄せ付けず、頬を朱に染めることもない。
 
私の場所にはあるべき時が流れる。
 
……ただ一点を除いて。
 
古の大賢者オズローン。
 
魔術師たちの先生であり、すべての知識の真髄を知るもの。
 
栄光の七賢人であり、伝説では深淵祓魔を行った記録が残っている。
 
生きていれば齢はゆうに1000歳は超えるだろう。
 
私も星の運命のもとに生まれ、神童として育ち、今は最上級の銀等級の冒険者。
 
アカデミーでの論文は、ここ30年の魔法史を変えたとも言われた。
 
大賢者オズローンの爪の先ほどの魔力もある。
 
尤も、彼は溜め息だけで次元流を物ともしないらしいが……。
 
「彼、結構気のいいお爺さんよ? なんでもこの世界が10周目らしくて、彼は毎世界ごとに星々とともに現れるんだとか。」
 
知人の魔女ドルチェルは彼を知った風に言うが、彼女はまだ300年も生きていない。

……というか、それもう次元間の霊性の格じゃないの。
 
「これ、彼の果樹園の果実で作ったフルーツタルト。私が作ったから絶品よ?」

私は目眩を覚えた。
 
「ねえ、ちょっと待ってドルチェル。私たち同郷よね?」

「ええ、あの故郷の果樹園。あの幾つかは彼の設計思想を踏襲しているわ。10回生きてるから当然と言えば当然ね。前回の世界での功績もあるから、ぶっちゃけ会ったことないだけで、みんな知り合いだと思うわよ。知らずに彼らに会ってる人も居るはずね。」

「え?(彼ら?)」

「まぁ確率と可能性の話にはなるけれど。伝説上の人物たちだからね。」

「え?(たち?)」

「あぁ、彼らはね、いわゆる称号なのよ。よくあるでしょう?○○の王とか女王とか。私の知り合いの彼はたまたま果樹園を営んでいるのよ。」

「……。」

一方その頃、酒場では。

「へっくしょん!」

「どうした? 風邪かエイドウィン?」

「ああ、ザザーレンか。……ズズッ、誰か噂でもしているんだろう。ドルチェルかフェイミィ辺りが新しく呪文でも考えついたんだろうさ。」

エイドウィン、性懲りも無く私のこと呼ばないでくれる?

「おぅ、やっぱりフェイミィか。」

「エイドウィンの薄情者〜!」

「いやさ、俺は何にも……。おいちょっと待て。酒場で魔法を使うなー!」

ーーー異世界伝聞録。
   銀等級冒険者の世間話。


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