掌編ファンタジー小説「異世界伝聞録」その10
アルビノの黒猫ルフは星空に願ったんだ。
大賢者オズローンは精霊卿。
森の小さな果樹園を営んでいる。
使い魔のルフは木天蓼(またたび)に酔っていた。
猫妖精族(ケットシー)の賢者。
妖怪・猫又変化(ねこまたへんげ)。
安らぎの楽器の猫神(シストラムのバステト)。
さまざまな異名を持つ猫。
黒猫ルフもその猫の一匹だ。
彼女はオズローンの弟子であり、穏やかで聡明な淑女であり、使い魔であり、理解者でもある。
オズローンは大賢者であるが、今は隠居の身だ。
その魔力のほとんどは、数々の彼の宝物に封印されてもいる。
「ルフや。お前は賢いが、お前の知恵はどこからやってくる?」
「オズローン。私は思うのです。知識は点に過ぎないと。」
「知恵ではなく、知識が点に過ぎぬと?」
「はい。点が集まり線となり、それらがすべてを組み上げる。」
「すべてか……。或いはそのような夢もまた、見た気がするが。お前は点のなにを知っている?」
「存在にございます。オズローン。」
「なるほど……存在か。もっと聞かせてはくれないか? 君の存在への価値観を知りたい。」
「はい、オズローン。私はひとつの疑問に辿り着きました。存在とは果たして、無秩序でしょうか? それとも秩序性でしょうか?」
「実を伴うのであれば、秩序の元にあるだろう。」
「はい、その通りですオズローン。では無とはなんでしょうか?」
「……無が在る。」
「ご理解が早く助かります、オズローン。無は存在があるかわからない。確かめる術のない状態の存在です。だから、無が在る。」
「なるほど、故に存在はすべてと符号し得ると。確かに。では個の存在とはどう考えるかね?」
「はい、私の一意見としましては、個とは一つの在り方です。すべてはある。」
続けてルフは語ります。
「すべてを知ることができても、同時にすべてを知覚することは不可能で、可能です。」
「それが、個の知覚の占有するすべてで、個の知識の及ぶすべてで、しかし″すべてのすべて″です。」
大賢者オズローンは一度片目を閉じ、嬉しそうに微笑んで言いました。
「はは…。気持ちのいい解答だ。君はすべての在り方を尊く思うのだね。それは誇りにも似ている。」
「はい、オズローン。ある哲学者はすべてを懐疑しました。すべてを拒否することは、拒否すら拒否するため、自己を確固たるものにするか、すべての在り方を認めます。…………私はその間こそが存在であると。そう思います。」
「点を点とするか、全とするか、か。それらはまるで、合わせ鏡の像のようだね。ひとつであり無限。」
「はい、オズローン。お話できてよかったです。とても有意義なひとときでした。」
ーーー異世界伝聞録。
星の猫と大賢者の語らい。
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