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ウズベキスタンサッカー 冬の移籍情報

 オフシーズンの楽しみと言えば、どの国にとっても移籍市場の動きだろう。ウズベキスタンでも各チームが来シーズンに向けて積極的な選手の入れ替えに動いており、また何人ものウズベキスタン人選手が戦いの舞台を移している。ここでは有力選手の動向をまとめた。
 なお、新シーズンは3月6日のスーパーカップ(パフタコル対ナサフ)を経て、3月9日にリーグ第1節が行われ本格開幕する。

 ※移籍情報以外のオフシーズンの話題は別記事にまとめています。

 ※全チームの移籍選手リストはこちら。

【決定】ジャロリッディン・マシャリポフ

パフタコル → アン・ナスル🇸🇦 ⇒ シャバーブ・アル・アハリ🇦🇪
 今シーズン、パフタコルで充実のシーズンを過ごし、連盟選出の年間最優秀選手とリーグMVPの2冠に輝いたマシャリポフ。今オフで契約が切れることから移籍が確実視されており、今冬の移籍市場の目玉選手となっていた。12月には早速サウジアラビアのアン・ナスル(リヤド)の移籍話が報じられ、正式発表は秒読み段階まで進んだが、一旦ペンディングに。アン・ナスルの財政難が理由だとか、すでに外国人選手を7人登録しているため獲得しても登録できず、もっとも出番の少ない金珍洙を整理してからの加入になるからだとか、さまざまなことが語られた(結局真相は、何らかの理由によりアン・ナスルがFIFAから選手の新規登録禁止処分を受けていたということだった)。
 年明けに始まったパフタコルのドバイ合宿にも参加していなかったが、1月29日付のウズベキスタンの報道で、アン・ナスルと契約し、即期限付き移籍でUAEのシャバーブ・アル・アハリ(同胞のMFのアズィズ・ガニエフが所属)でプレーする説が急浮上。そして翌30日、報道通りアン・ナスルとの契約とシャバーブ・アル・アハリへの期限付き移籍が発表された。アン・ナスルとは3年契約、シャバーブ・アル・アハリへは5ヶ月間の期限付き。
 当初話題になった外国人枠だが、サウジアラビアと異なりUAEはアジア枠がなく登録人数も無制限。登録の問題はないが、1試合に起用可能なのは4人まで。シャバーブ・アル・アハリはすでにガニエフ、イゴール・ジェズス、エルドン、カルロス・エドゥアルド、カルタビアの5人が主力としてプレー中。彼らに割って入ることが最初のタスクとなりそうだ。

 なお、マシャリポフの抜けたパフタコルは、ナフバホルのアズィズ・トゥルグンボエフの加入を発表した。マシャリポフと同じ1994年生まれのウズベキスタン代表の左ウイング。スピードに乗った縦方向への突破と、左足から放つ高速クロスが持ち味。スワーブのかかった美しい球質と精度は、コーカンドのホルムハメドフと並び国内随一。ここ数年で一気に代表主力級にまで成長しナフバホルの上位進出に貢献、中堅チームの名物選手としてなかなかの存在感を見せていた。
 高い実力を持ちながら代表ではマシャリポフの控え、今回もマシャリポフの後釜。少しかわいそうな立ち位置の選手だが、それでもやはり国内ナンバーワンの存在。パフタコルの戦力ダウンはあまりなさそうだ。

【決定】シャフゾド・ウバイドゥッラエフ

メタルルグ → シャフツョール・サリホルスク🇧🇾
 一昨年アンディジャンで頭角を現し、昨年加入したメタルルグでも好プレー。点が取れるだけの選手からマルチなストライカーにスタイルチェンジを果たした。さらに活躍が認められウズベキスタン代表デビューを果たし、デビュー戦で初ゴール。2年間は全く無名の存在だったが評価は急上昇、一気に国内を代表するフォワードになった男が、勢いそのままに昨季のベラルーシ王者に加入した。シャフツョールは昨季、同い年の同胞でポジションも同じヤフシボエフが大きなインパクトを残した。どうしても比較されてしまうだろうが、ベラルーシでものし上がることができるか。
 早速ドバイで行われるチーム合宿に参加。2月6日にはスパルターク(モスクワ)と練習試合に出場。同胞のウルノフと同じピッチに立った。

【決定】ルスタム・アシュルマトフ

光州FC🇰🇷 → 江原FC🇰🇷
 2シーズン過ごした光州では1部昇格と翌年の残留に大きく貢献。 シーズン後に監督を含む多くの人材が抜けたのと、後方からのビルドアップから攻撃を構築するスタイルが自身に合っていると感じ江原への移籍を選択。ウズベキスタンの若きDFリーダーは、ソリッドで激しい韓国で更なる経験を積み、攻守共にレベルアップなるか。
 なお江原FCでは、韓國榮(懐かしい名前!)と同僚になる。

【決定】FWドストンベク・ハムダモフ

パフタコル → アン・ナスルSC🇦🇪 ⇒ ハッタ🇦🇪 
 昨シーズンは無敵のパフタコルでマシャリポフ、チェランと強力トライアングルを形成し9得点7アシスト。アンジでの不本意な挑戦から立ち直り、充実のシーズンを過ごした。シーズン終了直後には米国MLSのチームからのオファーがあったというが、よりよい環境を求めるハムダモフはこれを断り、中東でキャリアを継続することにしたという(オファーの存在は本人がインタビューで明かしている)。契約満了によるフリー移籍で1年半の契約年数。
 なおUAEはシーズン中で、加入してすぐ早速1月15日の試合に出場している。UAEには同胞のガニエフ(シャバーブ・アル・アハリ)とシュクロフ(シャールジャ)もおり、パフタコルと代表で両翼コンビを組んできたマシャリポフの加入も決まった。近年ウズベキスタン人選手の有力な移籍先となっている。
 ところが1月30日にアン・ナスルはアルジェリア人MFアベイドの加入を発表。ハムダモフの代わりに選手登録されたという。単純に4人の外国人枠をフレキシブルに入れ替えているだけなのか、早くも彼が見切られてしまったということなのか……?いずれにせよ彼が不要だと判断されれば契約破棄なり他チームへの期限付きでの放出なり何らかの対応があるはずである。

 2月1日、結局ハッタへの期限付き移籍が発表された。経緯はどうあれ、わずか2週間で構想外になってしまった。さらに移籍先のハッタは13試合で勝ち点2のリーグ最下位、おまけにアン・ナスルを超える数の外国人選手が在籍中。チームとしても個人としても厳しい戦いを強いられることになる。

【決定】MFショフボズ・ウマロフ

エネルヘティクBGU🇧🇾 → BATE🇧🇾
 エネルへティクの前に所属していたAGMKではコーチとの折り合いが悪く出場機会もまばら(おそらく左ウイングでプレーしていたはず)で、移籍当初もAGMKでも同僚だったヤフシボエフの「バーター」のようであまり目立つ存在ではなかった。しかしドリブル一辺倒のプレーを改めたことで変身。前半戦はトップ下、後半戦はFWでプレー、アグレッシブにゴールに迫るプレーと高い精度のフリーキックを武器に驚きの活躍。エネルへティクの快進撃に貢献し、同胞のヤフシボエフと共にベラルーシにちょっとした「ウズベク・ブーム」を生み出した。
 ベラルーシはおろかウズベキスタンですら全くの無名選手だったが、わずか1年でベラルーシの強豪BATEに辿り着いた。BATEとは2020年7月に対戦しており、素晴らしい直接フリーキックを1本決め、もう1本をポストに当てている。移籍はその直後に決まっており、本人もあのプレーがきっかけで呼ばれたと冗談を言うほど。冬にチーム合流。シーズンオフの練習試合ではさっそく挨拶代わりの直接フリーキックを沈めた。本人は多くのウズベキスタン人選手が望むロシアへの移籍にあまり興味がないというが、BATEでの活躍次第では可能性は十分にある。人材過多気味の代表MFに新たなる男が現れた。

【決定】MFイスロム・ケンジャボエフ

ナサフ → 済州ユナイテッドFC🇰🇷
 非常に小柄だが俊敏な動きと優れたドリブルスキルで右サイドを突破する1999年生まれの若手ウイング。育成に定評のあるナサフの下部組織で育ち、早くから将来を嘱望されていた。2014年にはU-16代表に飛び級で参加、15歳にしてその年の年間最優秀若手選手賞(連盟選出)に選ばれた。その後はなかなかトップでの出場機会に恵まれていなかったが、昨季ようやくレギュラーに定着。フル代表でも少しずつ出番が増えてきた新鋭が、来季から韓国1部に昇格する済州ユナイテッドに移籍。ここ数年で韓国とUAEはすっかりウズベキスタン人選手移籍先のトレンドとなった感がある。
 公式発表がなく、ジャーナリストの情報を吸い上げたChampionat.asiaのソースしかないのが気がかりだが、おそらく正式に決まっているのだろう。別報道によればナサフの5倍もの給料の提示があったという。

【決定】FWジャスル・ヤフシボエフ

パフタコル → レギア・ワルシャワ🇵🇱
 本ページでもたびたび紹介しているが、昨シーズンベラルーシを熱狂させたFWジャスル・ヤフシボエフ。パフタコルからエネルヘティクBGUに加入すると開幕から大活躍。シーズン途中で同一リーグの強豪シャフツョールに引き抜かれると、新天地でも変わらぬプレーで優勝に貢献。前述のウマロフとともに、ベラルーシにウズベキスタンブームを巻き起こした。
 2チーム合計で29試合18得点(ランキング2位)6アシストと文句なしの成績。エネルへティクBGUの年間最優秀選手、最優秀外国人選手、最優秀FWに選ばれるとともに、リーグのベストイレブン選出、自身も久しぶりの代表に選ばれるなど充実の1年を送った。

 今オフはステップアップ間違いなしと見られていたが、その割に具体的な移籍報道がなかなか出ず。どうしたものかと思っていたら、2月7日にようやく最初の報道が。「興味を持っているチームがあり、当事者間の交渉が行われている」という程度の情報だが、そのチームとは昨シーズンのポーランド1部リーグ王者のレギア・ワルシャワ。リーグ優勝14回の名門チームだ。
 2月12日にはワルシャワでメディカルチェックを受け、経て正式に契約にサインする見込みとの公式情報が出た。こうなれば発表は時間の問題。案の定、翌13日に正式に移籍が発表された。延長オプション付きの2年契約で背番号は「7」。公式発表でいきなり"Yakshibaev"と名前を間違えられてしまった。

 やや独りよがりなプレーが目立つきらいもあるが、ポテンシャルの高い選手であることに間違いない。「昨季はベラルーシで自信をつけた。レギアには素晴らしいファンがいると聞いています」と早くも気炎をあげるヤフシボエフ。豪快なドリブル突破と正確なシュートで、ポーランドを熱狂させられるか。

【決定】FWイーゴリ・セルゲーエフ

パフタコル → アクトベ🇰🇿
 パフタコルのウズベキスタン代表FWセルゲーエフも今オフ移籍市場の目玉。11月の段階で、タイのブリーラムからの正式オファーと「韓国の強豪チーム」からの興味が伝えられていたが、さらに年始からドバイで行われているパフタコルの合宿に不参加。様々な憶測を呼んでいた。

 先日行われたパフタコルのスポーツディレクター、ジャーファル・イリスメトフ氏のインタビューで現状が明らかになった。
 まず、ブリーラムからのオファーは事実であった。ブリーラムは昨季セルゲーエフと同僚チェランのダブル獲得に動いていたが、チームは彼とシーズンいっぱいの残留に「口頭で」合意したという。そして、結局シーズンオフも高額の引き合いが多数来ているようで、その中にはUAEのチームもあるという。セルゲーエフがタシケントに残ったのはパフタコルと残留交渉を行っているためで、イリスメトフ氏の言葉を借りると、残留は「簡単ではない」ようだ。このインタビューの直後、パフタコルと契約延長せず、フリーエージェントになっていることが判明した。

 2月11日にカザフスタンメディアが報じたところによると、カザフスタン1部リーグ王者のアスタナとの交渉が進行中とのこと。昨季FWのレギュラーを務めたソティリウがチームを離れたため、代役として彼をターゲットにしたという。それから1週間が経った19日、同じカザフスタン1部のアクトベと契約を結ぶことが明らかになった。現時点で契約年数は不明。色々な情報が出て紆余曲折の感があるが、ようやく去就が決まった。早速チームの広報からインタビューを受けたようだ。

 前回の国外挑戦は苦い結果に終わったセルゲーエフ。国内リーグですっかり復活し自信を取り戻した感があるが、ウズベキスタン代表の躍進にはこの男の本領発揮が不可欠である。もう「若手」ではないが、カザフスタンでさらに技を磨き、ファンが長年待ち望んだ姿を見せられるか。


【決定】FWボブル・アブドゥホリコフ

ナサフ → ルーフ🇺🇦
 今シーズンその才能を一気に開花させ、ナサフのエースストライカーに成長したボブル・アブドゥホリコフ。昨季は忍者のような俊敏な動きと正確なシュートで、得点ランク2位の17得点をマークした。ウズベキスタン代表でも出場機会が増えつつあり、今後の更なる飛躍が期待される。
 昨年末ごろから国外の数チームからオファーを受けており、契約満了による移籍の噂が立っていた。年末の本人へのインタビューで判明したのは、現在フリーエージェントであること、そして「ギリシャのチーム」と「アジアの国のチーム」からのオファーがあること。さらに年明けにはアゼルバイジャンのネフチ(バクー)、さらにはMLSからの関心も伝えられ、にわかに身辺が慌ただしくなる。彼本人は「ヨーロッパは選手が成長のための全てがある」と欧州志向のよう。

 そんな中、2月19日にウクライナルーフ(リヴィウ)のメディカルチェックを受けており、契約間近との報道があった。そして、程なくして契約書にサインした。セルゲーエフ同様紆余曲折の末、ヨーロッパに乗り込むことになった。ジャーナリストのシャフボズ・ベガモフ氏によると、契約期間は3年、背番号は16。すでに練習参加しているとのこと。
 ルーフは2003年創設、今季初めて1部リーグを戦う新興勢力。アマチュアリーグ所属時代の2015年には最晩年のマクシム・シャツキフが所属していた、ウズベキスタン人にも多少縁のあるチームである。なお、ウクライナ1部リーグでプレーするウズベキスタン人はシャツキフ(ディナモ、アルセナル、チョルノモーレツ、ホヴェルラ)、ヴィターリー・デニーソフ(ドニプロ)、サンジャル・トゥルスノフ(ヴォルスクラ)に続いて3人目。
 ベガモフ氏によると、国内のナフバホルとトゥロンからは現在の2倍の俸給でオファーがあり、ナサフからは契約延長オファーに部屋や車などもセットになっていたというが、決め手はやはり本人の欧州志向だったようだ。


 この背後にあると目されるのが、相前後して報道されたナサフの財政問題3ヶ月分の給与、7試合分の勝利給、そして追加のボーナスが未払いだという。昨年は年末恒例のチームイベントも未開催で、1-3位チームに送られるメダルも選手に届いていない。昨年半ばにカシュカダリヨ州知事がチームと話し合いを持ち、条件面の改善を確認したというが、選手に支払うべき金銭は準備できていない。さらに多くの選手の契約が延長されておらず、アブドゥホリコフの退団もこの煽りを受けたものだろう。さらにいうと、今シーズンを自前の若手選手ばかりで戦ったのも人件費節約の窮余策だったのかもしれない。
 事実、今オフにはケンジャボエフが韓国の済州ユナイテッドに移籍した。そしてナサフにはアブドゥホリコフ意外にもネーマトフ、ムヒトディノフ、ボゾロフ、ナルズッラエフ、ノルチャエフ、モスゴヴォーイ、サイトフ、アリクロフ、ガイブッラエフ、エルガシェフ、アフマドジョノフ、フジャンベルディエフら優秀な若手選手が山ほどいる。さらにシーズンベストイレブンにも選出されたセルビア人MFスタノイェヴィッチの退団も噂された。
 2月5日にチームから声明が出ると言われていたが、実際に出たのはGMが困ってますと言うだけのものだった。優秀な育成組織を持つだけに、彼らの崩壊はウズベキスタンサッカー全体にも悪影響を及ぼす。さらにこのようなケースは彼らが初めてではなく、数年前にも育成クラブのマシュアルが財政破綻しており、復帰まで数年を要した。
 新シーズンが始まる前にチームが空中分解する危険性もあったが、この直後にスポンサーと当局を交えた話し合いが持たれ、スポンサーのウズベクネフトガス社の協力によりひとまずは危険な状態から脱したことが発表された。ぬか喜びは禁物だが、これで選手スタッフの大量流出は食い止められ、状況は多少好転すると思われる。アブドゥホリコフとムヒトディノフは抜けたが……。


【決定】MFオストン・ウルノフ

スパルターク🇷🇺 → ウファ🇷🇺(期限付き移籍)
 昨冬にロシアのウファに移籍し、わずかな期間で存在感を高めたのち、強豪スパルタークに加入した若手MFオストン・ウルノフ。ジャロリッディノフと並び国内でもっとも将来を嘱望される逸材だが、残念ながら新天地で大いに苦しんだ。
 というのも、2020年シーズンにウファからスパルタークの社長に就任したシャミル・ガズィゾフ氏が主導となって連れてきた、いわば「手土産」のような存在だったらしく、当然チームの強化方針に全く沿わない移籍だった。開幕当初こそ戦力見極め目的もあり数試合起用されたが、ウミャーロフとクラルの牙城は崩せず。すぐにメンバー外が定位置となってしまった。
 そんなウルノフだったが、年末ごろから身辺が騒がしくなる。報道によると古巣のウファとルビンが彼の獲得を狙っているという。どちらも期限付きの移籍を目論んでいるが、スパルタークが彼らの希望よりはるかに高額な金額を設定しているため、あまり話は進展していない。そんな中、スパルタークのトレーニングセッションにウルノフが選ばれた(ロシアは現在ウインターブレーク中で、強豪チームは気候が温暖な中東や地中海沿岸地域で合宿を行うのが通例)。これが何を意味するのか。彼がチームの構想に入っているという意味なら、中断明けから出番が増えるかもしれないが、ウズベキスタン国内でも彼が合宿に帯同したことに驚く見方が多い。
 なお、ルビンは今冬の移籍市場で彼とポジションと年齢が近い齊藤未月とレオン・ムサエフを獲得している。

 そして2月19日、結局スパルタークがロシア1部リーグの選手リストからウルノフを外したとの情報が出た。要するに選手登録を抹消したということで、退団が近いことを示唆するニュースだったが、やはりその2日後にウファへの買取オプション付きの期限付き移籍が決まった。
 古巣のウファは自身の評価を急上昇させたチームでもある。チーム戦術は昨季と変わらず、インサイドハーフまたはトップ下を置く3バック。つまり彼の「居場所」もしっかり用意されている。彼のロシア挑戦は、半年のブランクを経て新たに仕切り直しといったところ。試合勘を取り戻し、更なる活躍を期待したい。

【チーム情報】ロコモティフが大型補強

ロコのユニフォーム姿のシディコフ。同時加入のコディルクロフとは体格も風貌もよく似ておりよく見間違える。アップだと見分けがつくが、遠目から見たり動いているのを見たりすると本当にわからない(例:シディコフコディルクロフ)。


 次は国内の情報。
 ロコモティフが大胆な戦力強化を果たした。パフタコルから2人、ブニョドコルから主力を一気に3人も完全移籍で引き抜いたのだ。これには正直度肝を抜かれた。

GK🇺🇿アブドゥマヴロン・アブドゥジャリロフ(←ブニョドコル)
DF🇺🇿サドリッディン・アブドゥッラエフ(←パフタコル)
DF🇺🇿イスロム・コビロフ(←ブニョドコル)
MF🇺🇿ジャヴォヒル・シディコフ(←パフタコル)
MF🇺🇿サンジャル・コディルクロフ(←ブニョドコル)

 5人ともウズベキスタン代表歴を持つ好選手で、中でもコビロフとコディルクロフは主力級。さらにS.アブドゥッラエフ以外は20代前半から中盤で、これから選手としてのピークを迎える伸び盛り。シディコフは昨季ようやく大怪我から戦線復帰したばかりで状態は万全ではないが、かつて20歳そこそこで代表のトップ下の座を確保した逸材である。さらにナフバホルから23歳の万能アタッカー、ラシドホノフも補強。
 5年ほど前はブニョドコルとパフタコルから王座を奪い、リーグ3連覇を成し遂げるなど黄金時代を築いたが、当時もジェパロフやカパゼなどの代表主力級選手をブニョドコルから引き抜くという強烈な手段で戦力を整えた。

 昨シーズンは9位。T.アブドゥホリコフやマハラゼといった実力者を擁しながらも結果が出ず、ここ2、3年は残念なチームの感が強いロコモティフ。しかしここにきて往時を彷彿とさせる大型補強で全ポジションを大幅にレベルアップ。不本意なシーズンに別れを告げ、来季は間違いなく上位争いに食い込んでくるだろう。捲土重来なるか。

【チーム情報】着実にチーム力を上げるトゥロン

 先日、こちらの記事でも話題にしたが、来季初めて1部リーグに挑戦する新興勢力トゥロン。フェルガナ州ヤイパンに本拠地を置くこの野心的なチームは、今オフかなりの戦力強化に励んでいる。先日、元ジュビロ磐田のムサエフの加入が発表されたが、それ以外にも多くの選手を集め、昨季とは丸ごと別チームに変貌しつつある。
 中でも注目はセルビアからやってきたバビッチ。高い技術力を持ち、アシストもフィニッシュもハイレベル、攻撃の中心になることが期待されている。他にも韓国、ガーナ、ベラルーシ、タジキスタンなど様々な国の選手を補強している。元から所属するソヒボフ、アブドゥラシドフといった中心選手とどう融合するか。
 新加入選手は以下の通り。こんなにたくさん補強していると財政面が少し心配になってくるのだが、今はとにかく「どうなるか見てみよう」というやつである。

GK🇺🇿イスロム・アブドゥッラエフ(←コーカンド)
DF🇧🇾ヴラジスラフ・コスムイニン(←キジルクム)
DF🇷🇸ダヤン・ポニェヴィッチ(←TSK🇷🇸)
DF🇺🇿ジャホンギル・メフモノフ(←スルホン)
DF🇺🇿アブドゥカッホル・ホジアクバロフ(←スルホン)
DF🇺🇿ギヨスジョン・コミロフ(←ナフバホル)
MF🇺🇿イブロヒム・ユルドシェフ(←スルホン)
MF🇹🇯ウマルジョン・シャリポフ(←ハトロン🇹🇯)
MF🇺🇿ダヴロンベク・ウミロフ(←ロコモティフ)
MF🇺🇿フォズィル・ムサエフ(←ジュビロ磐田🇯🇵)★
MF🇷🇸シニシャ・バビッチ(←プロレタル🇷🇸)
FW🇺🇿オリフフジャ・アブドゥホリコフ(←ゾミン)
FW🇺🇿ジャスル・ハキモフ(←ブハラ)
FW🇺🇿アブドゥラフモン・アブドゥルハコフ(←メタルルグ)
FW🇺🇿カムロンベク・アブドゥルハミドフ(⇦AGMK)
FW🇺🇿ムザッファル・ムザッファロフ(←メタルルグ)★
FW🇰🇷キム・ボヨン(←全南ドラゴンズ🇰🇷)
FW🇬🇭クワメ・カリカリ(←ENPPI🇪🇬)
(21年3月3日付、←は完全移籍、⇐は期限付き加入、★は代表歴あり)

【ほぼ決定】ジャロリッディノフの新天地はなんとアンディジャン!

 最後の話題は、昨夏、活躍の舞台をロシアのロコモチフ(モスクワ)に移し、ウズベキスタンサッカーファンに歓喜をもたらした若き逸材ジャロリッディノフ。
 ロシア上陸は華々しかったものの、加入すぐブニョドコルとロコモチフ、そして代理人のベロウース氏との間の不透明な金銭の流れが明るみになり、ウズベキスタンサッカー連盟も調査に乗り出すほどの騒ぎとなった。このスキャンダルは、「市場価格」の数倍の移籍金がロコから支払われ、余剰分がどこに行ったのか結局わからずじまいになった……という内容である。騒動のさなかブニョドコルのウルグベク・ミルザエフ会長が辞任し、裁判沙汰にまで発展した(結局ミルザエフ氏が罪に問われることはなく、今年初めに再びブニョドコルのフロントに戻った)。ブニョドコルは近年財政難に喘いでおり、ここでの資金が彼らの「足し」になったとも報じられた。
 ジャロリッディノフはベロウース氏の不穏なビジネスに巻き込まれた形。スパルタークでのウルノフ同様ロコに請われて来たわけでもないため、チームの外国人枠の兼ね合いで試合に出ることもかなわず。すぐに昇格組のタンボフに貸し出されるが、タンボフも厳しい戦力と財政難のダブルパンチで彼を起用する余裕などなく、半年間ほとんど試合に絡めぬまま2020年を終えた(出場は国内カップ戦1試合のみ)。
 そんな中、年明けに事態が突然動く。1月23日にベロウース氏が「近く彼はチームを離れる」とコメントした翌日に、選手・チーム双方合意のもと契約を解除した。ベロウース氏によると、すでに複数のチームから引き合いがあるようで、初めての国外挑戦は苦い結果に終わりはしたが、今オフ中にも新たなチームでの活動が始まりそうだ。まだまだ若くいくらでも取り返しの効く年齢だけに、新天地での活躍を期待せずにはいられない。
 なお、契約解除後はウズベキスタン国内に滞在している。2月9日にはブニョドコルの練習試合に出場しており、移籍先が決まるまで、しばらくは古巣のやっかいになるものと思われる。

 そして新シーズン開幕を目前に控えた3月4日、驚きのニュースが。「アンディジャン入団」。アンディジャンは昨シーズン15位、入れ替え戦を経て辛くも残留。毎年のように残留争いに巻き込まれており、さらにいつも財政難の情報が付き纏う。筆者にとっては正直あまり印象のいいチームではない。
 ウズベキスタンの将来を担う逸材がどうしてアンディジャンを選んだのか。本人から直接語られてはいないが、推察するに2点が挙げられる。ひとつはチームを率いるオタベク・グロムフジャエフ監督。39歳の青年監督は昨季最終盤に就任すると、見事1部残留に導いた。彼はこれまでさまざまなカテゴリーのユースチームで指導しており、ジャロリッディノフも彼に師事したことがある。勝手知ったる指揮官の下でのプレーは、長らく失われている試合勘を取り戻すにはちょうどいいだろう。もうひとつは3月4日という時期。早いチームは2日後に、遅くとも1週間以内にシーズン緒戦を戦うこの時期、すでにほとんどのチームは陣容を固めており、戦術の浸透や選手のフィットといった準備も済ませている。いくら大物が突然市場に現れたとしても、それまで準備してきたことを曲げてでもすぐに獲得……とはなかなかいかないものである。

 前述の通り、アンディジャンは決して豊かなチームではない。今オフはどういうわけだか20人近く補強して今シーズンにかける意欲を見せているが、そういう「懐事情」に関する報道はほとんど出ないため、実情がどうなっているのか窺い知ることはできない。一抹の心配はある。
 新エースのアブドゥマンノポフ以外に取り立てて見るべき選手もいないため、アンディジャンは別に応援しているチームではない。そして彼のポテンシャル、市場価格、チームの状況から鑑みるに、ここに長居は絶対にしないだろうし、何なら数ヶ月で出ていくはずだ(むしろそれが最も望ましいといえる)。しかし、「一時避難先」のチームのせいでこの国宝級の才能のキャリアがこれ以上狂ってしまうことだけは避けねばならない。ロコモチフ移籍のきっかけを作った代理人のベロウース氏とは手を切ろうとしているようだが、ジャロリッディノフの試練の時はまだしばらく続きそうだ。

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更新履歴
2021年2月5日 記事立ち上げ
2021年2月7日 ヤフシボエフの項加筆
2021年2月10日 誤字修正
2021年2月13日 ヤフシボエフの項修正
2021年2月20日 セルゲーエフ、ウルノフ、アブドゥホリコフの項追記
2021年2月21日 ウルノフの項修正
2021年3月4日 ジャロリッディノフの情報追記

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