41話 去人(さりびと)
無事買い物も終わり墓守のドミノとドムは、小屋へ戻るため待ち合わせの場所で運び屋・アネモネと落ち合った。
「あれ? 何か可愛い子連れちゃって」
アネモネは、ドムの手のひらで踏ん反り返っている星の子・不機嫌顔のミィをつついて笑った。
「ミィって言うんだ」
「この子、怒ってんの?」
「いえ、生まれた時からこの様な顔らしくて」
「そっちの子も連れてくの?」
アネモネがドミノのカバンから顔を出している小さなミィクを指差した。
ドミノは驚いて小さなミィクをカバンから出した。
「着いてきてしまったんですね。今、インク屋に……」
そう言うと、小さなミィクは素早くドミノの手のひらから飛び出しドムの手へと飛び移った。
「すばしっこい子だね。珍しい」
アネモネはドムの手のひらで不機嫌なミィにくっつく小さなミィクを見て笑った。
「仲いいね。いいんじゃない? インク屋には沢山いるし」
「君も一緒に来る?」
ドムは小さなミィクを顔の前まで上げて声をかけた。
小さなミィクは、不機嫌顔のミィとは違い触覚が3本、色も淡い黄色をしていた。
小さなミィクは不機嫌顔のミィの後ろで首を懸命に縦に振った。
「よし、一緒に帰ろう」
ドムの言葉に小さなミィは飛んで喜んだ。
「この子は表情が豊かですね。見ていて飽きません」
ドミノは小さなミィクの前に手を出して、
「ドムの事、よろしくお願いしますね」
と笑顔で声をかけた。
小さなミィクは短い手をドミノの指に触れて大きくうなづいた。
「僕ってそんなに頼りない?」
ドムの言葉にドミノは、苦笑いで応えた。
実際ドムだけでは不安しかないドミノにとって、ミィク達はこころ強い味方なのは事実であった。
「じゃあ、君は小さいから……チィ。よろしく、ミィとチィ」
ドムは不機嫌顔のミィと小さなチィを優しくポケットに入れた。
ドミノはアネモネと一緒に行動していた守護柱・リスのラルーの姿が無い事に気がついた。
「ラルーはもう樹に戻りましたか?」
「ううん。去人の見送りだって。あ、今ちょうど来たよ」
そう言ってストアの人混みの中から、去人・ミナコがやってきた。
肩にはリスのラルーが座っている。
円卓会議の時とは違い、ミナコは少し楽しそうに笑っていた。
「ああやって、去る前に必ずいい思い出を作ってあげるんだって」
「思い出ですか?」
「すぐ忘れちゃうのにね」
アネモネの言葉にドムは首をかしげた。
「忘れちゃうの?」
「そう。去人はここを去ると、ここでの事は忘れちゃうんだって。多分次会っても初めまして、だよ」
ドムとアネモネが色々話している中、ドミノはラルーと目が合い頭を下げた。
ミナコが近づいてくる。
「墓守さん達は今から帰るのかの?」
「はい」
「ミナコ、この人達は王の墓守だ。さっき円卓で会ったの」
「はい。初めまして」
ミナコはドミノ達の前で丁寧に頭を下げた。
少し白髪が混ざった髪の間から、大きなピアスが揺れて見えた。
「綺麗な耳飾り。キラキラしてる」
ドムの言葉にミナコが笑顔になった。
「ありがとうございます。私のお守りなんです」
ドミノはミナコの揺れるピアスを見つめていた。
その視線に気づいたラルーは、ミナコの肩から飛び降りるとドミノの体にしがみつき肩まで登って立ち上がった。
「では、そろそろお別れじゃ」
「はい。ありがとうございました」
ミナコは再び頭を丁寧に下げた。
「ドミノ、ちょっとワシ達に付き合ってはもらえんか?」
「私ですか?」
「ちょっと、ドミノを借りるぞ。ドム、お前さんは近くのストアを見てくるとよかろう。次にここに来れるのは……」
ラルーは途中で言葉を止めた。
ドムはラルーの言葉を聞くや否や飛び上がって喜び、駆け出して行ってしまったのだ。
「いいよ、私が見とく。昼前には出発だからドミノを返して下さいね!」
アネモネは絨毯を丸めて担ぐと、駆け出したドムの後ろを追いかけて行った。
ドミノは慌ててアネモネに駆け寄ると、懐から金貨を3枚取り出した。
「これをドムに」
「おっ。すごいお金持ちじゃない」
「ペンを買うために貯めてたんですが……」
「分かった。渡せばいいのね」
「よく吟味して欲しいものを、と伝えてください」
「オッケー」
アネモネはドミノから金貨を受け取るとドムを追いかけて駆け出した。
ドミノは深く頭を下げて、アネモネを見送った。
「それじゃ、行こう」
ドミノとミナコは、肩を並べて大きなビルの8の巣へと消えていった。
駆け出したドムは足を止め、振り返った。
建物へ入っていくドミノ達をじっと見つめている所へ、アネモネが追いついてきた。
「どうしたの?」
「僕たちの事も忘れちゃうのかな……」
「ん?」
「ううん。行こう!」
「あ、遠くへ行っちゃダメだよ!」
急に駆け出すドムは、楽しい露店(ストア)の中へと消えて行った。
つづく
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