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外国人の採用を考える企業に知ってもらいたい、外国人の胸のうち ~元留学生の体験談より~


こちらの記事の後日編です。


「日本企業で働く外国人のスタンスには、3つのオプションがあります」

スクリーンから、流暢な日本語が聞こえる。

留学先として日本を選び、日本の大学を卒業した中央アジア出身の彼は、母国に戻らず日本の大手企業に就職した。約10年前のことだ。

彼が講師となり、“日本の会社で働くために”という留学生向けのセミナーがオンラインで開かれた。

「その3つのオプションとは、こちらです」

1. 社内で自分が外国人であることをアピールし、外国人としてガツガツいく

2. 社内の日本人や日本のビジネスのやりかたにガッツリ合わせる

3. 1と2のあいだをとる


「私は入社以来ずっと“3”のスタンスです。つまり、外国人としてのアイデンティティをもちながら、日本のやりかたに対応しています。外国人が日本でキャリアを重ねていくためには、フレキシビリティがとても重要です」

彼は、外国人からみた日本企業特有の文化について述べた。それらはどれも、日本人のわたしにはあたりまえのこと。でも、外国人にとってはなじみがない。

日本企業特有の文化、それはたとえば次のようなものだ。

1. あいまいな日本語

上司や同僚の言葉を鵜吞みにするのではなく、ときにはその背後の意味を読みとることを求められる。外国人にとって遠回しな言いかたは分かりにくいので、上司や同僚とギクシャクする原因の1つになる。

2. 先輩や後輩などの人間関係

“役職の上司と部下”とは違う上下関係(先輩/後輩)に、外国人は戸惑う。何年先輩であろうと、職場での地位(職位)が同じ人からの指導に、違和感をおぼえる。

3. 初期配属

大学の専攻とまったく違う部署に配属されるのは、外国人にとってはわけが分からない。大きなジレンマである。

4. 非効率な会議

コロナの影響で半分くらいに減ったものの、日本企業にはアジェンダのない会議が多い。会議のテーマを決める会議などもあり、非効率だと感じる外国人は多い。

5. 報連相(ほうれんそう)

日本企業で欠かせない【報連相】には、“Why?”で頭がいっぱいになる。なぜ、自分の仕事の進捗を上司に詳しく説明しないといけないのか。細かな報告や連絡を要求されると、自分は上司や同僚に信頼されていないと感じる。

「これらは、外国人から見た日本企業特有の文化です。どれも外国人にとっては理解するのが難しい。でも、これらにフレキシブルに対応できれば、仕事がスムーズに進みます」

彼は、スクリーン越しにそう言った。

「フレキシブルに対応する力。それが、日本企業が外国人に求めるコミュニケーションスキルの1つだと感じています。〇〇さん、どう思いますか」

彼は、セミナー参加者の留学生の1人に呼びかけた。IT技術者として、日本企業への就職を目指すアゼルバイジャンの留学生は、こう質問した。

「フレキシブルに対応するというのは、ぼくたち留学生が日本企業の文化に合わせるべき、ということでしょうか」

「とてもいい質問ですね。重要なポイントがそこにあります。日本で働きたい留学生に知ってほしい、とても大切なことです。説明しますね」

彼は、スライドを画面共有した。

「日本企業で働く外国人のスタンスには、3つのオプションがあります」

1.社内で自分が外国人であることをアピールし、外国人としてガツガツいく

2.社内の日本人や日本のビジネスのやりかたにガッツリ合わせる

3.1と2のあいだをとる


「3番のスタンスをとる、これが日本企業で働くためのキー。私は、入社以来ずっと3番のスタンスです」

自分のアイデンティティ6割、日本人のやりかたに合わせる4割。これを常にキープする。自分が人生で大切にしているもの、それをしっかりキープする。日本企業でキャリアを重ねるためには、それが必要です」

「つまり、日本人に合わせすぎると、“仕事では日本人、家では外国人”で人生が2つになってしまう。そうなると、とても辛い」

外国人の『駆け込み寺』的なボランティアもする彼は、そういったケースを何度も目にしたという。会社で日本人と同じようなやりかたを求められ、それに応えようとすればするほど辛くなる外国人は多いのだ。

「日本人に染まりすぎるのは、会社にとっても損失。なぜなら会社はわたしたち外国人に、日本人にはない“なにか”を期待して採用しているからです。その期待に応える、それこそが会社にとってのメリットになります」

日本企業が“なにを”期待して、“なにを”目的として外国人を採用するのか。

企業として外国人を雇う目的をしっかりと定め、その目的を従業員と共有することが必要ではないだろうか。そう思った。外国人と一緒に働くのは、企業上層部の人間よりも、むしろ現場の従業員なのだ。

外国人を雇う目的を従業員と共有しなければ、企業と外国人社員とのミスマッチはなくならない。

「留学生のみなさん、大切なことだから最後にもう1度言いますね。自分のアイデンティティ6割、日本人のやりかたに合わせる4割。これを常にキープする。みなさんが、目指す日本企業に就職できますように。健闘を祈ります」

外国人としてのアイデンティティを保ちながら、日本人のマインドセットを理解する。それは、わたしの想像よりもはるかに大変だろうと思う。

講師である中央アジア出身の彼は挑戦し続け、日本でキャリアを着々と重ねている。彼の後ろ姿に勇気をもらう留学生も多い。

一方、わたしたちはどうだろう?

日本企業も日本人も、外国人に歩み寄る姿勢が必要ではないだろうか。日本人と外国人がもっと対話をし、お互いを知ることが必要ではないだろうか。

外国人だけでなく、わたしたち日本人も“どう変わるべきかを考える”、それが大切なのではないだろうか。


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