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三牧聖子『Z世代のアメリカ』読んだ

なんとなくシラスでこんな動画を見て、この三牧さんて人は面白いなあとか、最近のアメリカの情勢どうなってるのかなあとか、そんな関心からこの本を読んでみたのである。

けっこう面白かった。

Z世代とはいまの20代なかばくらいの世代である。つまり2001年9月11日のテロのときには生まれていないか、物心がついていなかった人たちだ。

アメリカ例外主義との決別

彼らに特徴的なのはアメリカ例外主義の否定である。つまり世界の警察官はもういいよってことだ。ドナルド・トランプの志向と重なる部分が大きい。

もっともアメリカ例外主義の放棄はトランプの専売特許ではなくて、ジョー・バイデンも踏襲せざるをえず、轟々たる批判のなかアフガニスタンから撤退したのだった。

ウクライナ戦争に関しても、長期化するにつれて、ウクライナ支援に反対する人々が増えている。ロシアの国際法違反もアメリカ例外主義の放棄というトレンドを変えるには至らなかった。

ただZ世代が強くトランプを支持しているわけではない。バイデンに失望しているが、共和党支持に強く傾くわけじゃない。バーニー・サンダースのような「極左」支持がZ世代の特徴と言える。

民主党主流派への失望と関連しているのは、カマラ・ハリス副大統領の不人気である。女性初の副大統領でしかも黒人ということで熱狂的に迎えられたハリスだが、民主党メインストリームを歩んできた人だから、例えば警察の縮小なんてことに賛成するわけがない。

良くも悪くも中道というかまともなので、がっかりされてしまっているわけである。またお仲間のアンドリュー・クオモが性的スキャンダルでNY州知事の辞任を求められたときダンマリを決め込んだのは、左右どちらからもだいぶ不評だった模様。
さらに中米の困窮している人々に対してこっち来んなと言ったらしい。。。

ハリスのような責任ある立場の人間は穏健な右派を取り込むことも考えないといけないから、中道的な政策になるのはしょうがないと思うけどね。

不法移民というと、共和党大統領候補だったロン・デサンティスは、マーサズ・ヴィニヤード島という高級避暑地に、中南米からの移民50人をチャーターした飛行機で送りつけたらしい、、、

我々もたまに港区に難民キャンプ作ったら?とかいうけど、アメリカ人ほんまにやるんや、、、
ちなみにテキサス州知事グレッグ・アボットも同じようなパフォーマンスをしたとか。

Z世代はアメリカ例外主義が好きではないが、排外主義が好きなわけでもない。ほとんどが911をリアタイで知らないから、イスラモフォビアも上の世代ほどではない。

中国の政治思想に共感することはないが、中国とも共存していかなくてはならないと知っている。物心ついたときにはすでに中国は大国であったから、このへんも上の世代とは意識が違うようだ。

だから感情的にTiktokを叩く老人たちに違和感を覚えたりもする。

中東アフガニスタン問題

911を知らないから中東やアフガニスタンでのアメリカの軍事行動にも疑問を持つ。タリバンが女性の人権を抑圧してきたのは間違いないとしても、アメリカの軍事行動だって、同じかそれ以上に女性たちの人権を毀損しているのではないかと真っ当な考え方をするようだ。

911の熱狂の中、大統領の武力行使承認決議に、たったひとり反対した議員がいたことも紹介されている。

このような高潔な人物を知るたびに、アメリカの偉大さを思い知る。

もちろんアフガニスタンに関連して、中村哲先生も紹介されている。偉大な日本人だ。灌漑、上下水道など、水は本当に大事です。

中東についてもいくらか記載されている。本書はイスラエル・ガザ戦争の前に出版されているのだが、2023年3月の調査でパレスチナに共感するという民主党支持者が、イスラエルに共感するという民主党支持者を上回っていたのだ。
イスラエルの無慈悲な攻撃以降はこの傾向はさらに顕著になっていると思われる。

こうして、イスラエルだけが悪いわけではないが、中東では各種紛争により難民が大量発生し、中東欧諸国はお引き取り願うのに必死だったのである。

ところが数百万人規模に及ぶウクライナ難民を、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアは温かく受け入れている。。。こういうダブスタをさらりと指摘する著者に好感を持ったのはいうまでもない

これらの国々の高官たちの、ウクライナからの難民はこれまで見てきた難民とは違う!などというレイシズム丸出し発言もばっちり紹介してくれている。

中絶禁止問題

いまでは共和党が中絶反対(プロライフ)、民主党が中絶賛成(プロチョイス)とわかりやすく別れているが、昔はそうじゃなかったようだ。知らなかった。

2022年6月連邦最高裁は、1973年人工妊娠中絶の権利を保障したロー判決を破棄した。これはトランプによる司法の保守化の結果なのだが、彼はリベラルなNY出身のビジネスマンだったから、プロチョイスだったらしい。

リベラルはプロチョイスで、保守派プロライフという図式は、ロー判決以降なのである。

以前は中絶に反対していたのは民主党支持のカトリックで、貧しい女性が中絶を選ばざるをえない情況をなくすことが目標だったのである。

保守はといえば中絶問題に無関心だった。ロナルド・レーガンはカリフォルニア州知事時代に中絶の非犯罪化する法案に署名している。

ところがロー判決以降にレーガンは転向し、ガチのプロライフ派になったのである。さらに中絶反対の主流は北部のカトリックから、南部の福音派に変わる。貧困対策から、伝統的家族間の保持へと中身を変えて。

そしてそのレーガンが大統領になった1980年ころにプロライフ対プロチョイスの図式が完成するのであった。

ロー判決は中絶の権利についてプライバシの権利として擁護した。高名なルース・ベイダー・ギンズバーグは、これを批判していたらしい。中絶は自己決定権の問題なのだと。

それはまあそうだなと思う。本邦では成人女性を制限能力者のように扱う言説が跋扈しているが、大人ならば自分のことについて自分の責任において決定するのが当たり前である。後からそんなつもりじゃなかったとか甘ったれたことを言う人間に権利など与えるべきではない。

ギンズバーグが生きていたらいまの日本における、成人女性に対する甘やかしを見てなにを思うだろうか。



そういうわけでわりと中立的な観点からアメリカの今を描こうとしており、面白い書籍であった。


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