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小泉悠『終わらない戦争 ウクライナから見える世界の未来』読んだ

今日はクリミア併合記念日しかも10周年記念だ。

そんな記念すべき日に、プーチンさん大統領選挙で予定通りに圧勝したらしい。

そういうわけで旧ソ連シリーズどんどんいくぞ。

各種メディアにひっぱりダコの小泉悠さんの対談集である。時期は2022年末から昨年夏ころまでである。

6本の対談が収録されているが、うち4つは高橋杉雄氏とのものである。

1つ目は千々和泰明氏。ウクライナ戦争がどのように終結するか、というのが主題だが、泥沼化しそう、、、というありきたりな結論に。
第二次大戦のドイツ、あるいはイラク戦争のように徹底的な殲滅までいくか、朝鮮戦争のように妥協の結果として国が分断されるか、という両極があるが、ロシアにウクライナを殲滅する戦力はなく、またウクライナに妥協する意思が無い以上は泥沼化するほかない

日本人はアメリカによる寛大な占領政策を記憶にもっているが(いまなお広大な米軍基地を抱える沖縄の人々は違う想いをもっているだろうが)、ウクライナの人々は、現実に領土内で酷い目にあわされている。そう簡単に妥協などできないし、クリミアで妥協したらさらなる妥協を迫られたではないかという感情がある。

戦争を始めるとき指導者は楽観的な予測を持つが、期待通りにいかなかったとき、どのように終わらせるかプランを持っていない、という指摘は面白かった。大東亜戦争の日本が典型だが、プーチンもそうだったくさい。

2つ目は熊倉潤氏。中国とロシアという2つの権威主義国家の比較が主題。習近平もプーチンも次第に独裁色を強めたが、中国には曲がりなりにも官僚性の歴史がある。つまり習近平以外の指導層は新陳代謝しているが、ロシアの指導層はプーチンとともに老いているとのこと。

習近平は10代で文化大革命を見た世代という指摘もなるほどと思ったのである。この人たちはまだ20世紀を生きているのだ。こういう人たちが肉体的な限界を迎えて引退したら、新しい世代がなにかを変えるのかもしれないし、まだまだ長い20世紀が続くのかもしれない。

高橋杉雄氏との対談はより軍事的な話題に。ちなみに高橋氏は防衛省に就職したらしく、だから最近はメディアの露出が少ないとのこと。

話題はいろいろだが、やはりバフムトにロシアが異様にこだわるのが謎ということだ。ロシア国境から離れたバフムトよりも、ハルキウを取り返したほうがポルタヴァ、キエフに近づける。大祖国戦争でもそのようにしてキエフを奪還している。
また最重要なのはクリミアへの回廊ではなかったか。

ウクライナも一生懸命守る戦略的価値は低いのに執着している。ウクライナとしては守りを固めているところに突っ込んで来て、出血を強いることができるから?とか相手が必死だからこっちも必死になっちゃうとか色々と推測していた。

バフムトはワグネルなど非正規軍が主に担当していたという。だからロシアの指導部としてはあまり損耗を気にしなくていいし、ワグネルたちも軍功をたてる意味があったとかなかったとか。バフムトにウクライナ軍を引き付けている間に、より重要な南部の防御陣地を固めることができたのは事実なので、まあいいのかもしれない。
そしてワグネルは調子に乗りすぎてしまったかもしれない。

ウクライナもアメリカの助言を無視してバフムトから撤退しなかったが、その間に戦力を再編できてよかったのかもしれない。

欧米に関しては、援助が小出しというか、タイミングがちょっと遅いと批判している。ロシアが核兵器を使うのが怖いとかなんとか言っているが、結局は援助してるんだから、もっと早めにドーンといけやってことだ。
こういうことは素人にはよくわからない。ましてやトランプが大統領になったらどうなるのかなんてことはもっとわからない。

本書で小泉氏がたびたび指摘するのは、プーチンの損害受忍限度は意外と低いのではないかということ。つまり事実上の独裁者なのに、支持率を気にし過ぎなのではないかと。だから、少なくとも大統領選挙を通過するまでは、不人気な大規模な動員をできないだろうと予測されている。

そして大統領選挙が終わったので、ロシアは安心して動員をかけることができる。とはいえこれから声をかけて訓練してとなると、実戦に投入できるのは戦争も4年目に入ろうとするころだろう。

プーチンもそれなりに高齢で、元芸人でチャラいことこの上ないゼレンスキーと比べるといかにも元気がない。戦争が終わる前にプーチンの生物的な限界が来るかもしれないが、プーチンを生んだ土壌が変わるわけではないので、それで戦争が終結に向かうなんてことはなさそうだ。


こういう感じの、実際の戦況を反映したすっきりしない対談なのであった。でも面白かったよ。

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