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【実話怪談】靴擦れ

ある日、有村さんが会社から住んでいる都内のマンションに帰宅すると、自室の玄関扉の前で、白い花柄のワンピースを着た女児が一人でうずくまっていた。

時刻はもう二十三時を回っている。さすがにこんな時間に子供が一人でいるのは只事ではない。
無視するわけにもいかず、有村さんはその女児に声を掛けた。

「どうしたの大丈夫?」

「あん…よが…痛いの…」

消え入りそうな、か細い声で女児はそう言うと、長い髪で顔を隠し、うつむいたまま立ち上がった。
ワンピースの裾から伸びた女児の足を有村さんは確認する。裸足だった。
その足を見て有村さんは息を飲んだ。
甲のそこかしこに擦り傷があり、足首に近い一部分は皮膚がズルりとめくれあがり真っ赤な肉が剥き出しになっていた。両足がともに〈ズタボロ〉な酷い有り様だった。

「あんよ…どうしたの?」

「お…ずれ…したの…」

女児が有村さんを見上げた。
髪の隙間から顔が見えた。
足の甲と同じように、傷だらけで皮膚が〈ズタボロ〉だった。
胸騒ぎを抑えつつ、これはどうしたものか、警察に連絡するか、などと思案していると、
「お父さん!お父さん!お父さああああん!」
女児が甲高い声で絶叫しながら有村さんの足にしがみついてきた。そして腿のあたりを思い切り噛んだ。
「なにしてんの!俺はお父さんじゃないよ!」
痛みに苦悶しながら有村さんが手で女児の肩を掴み振り払おうと力を込めると、女児は足から離れ、再び有村さんを見上げた。
そして、にかっと歯を出して笑いながら、
「お父さん!もう私の事置いてかないでね!」
そう言って女児は跡形もなくスッとその場で消失した。

生きた人間じゃない。有村さんはそう理解した。急いで部屋に入るとすぐに布団にくるまった。
朝までガタガタと震え一睡も出来なかったそうだ。

翌朝、出勤のためにおそるおそる玄関を開け外に出ると、黒い子供用と思われる小さなサンダルが乱暴に脱ぎ捨てられたかのように放置されていた。

震えながら立ち尽くしていると、隣の部屋に住んでいる中年の女性がゴミ袋を持って部屋から出てきて心配そうに有村さんに声を掛けてきた。

「あの子がまた出たんだね。昨日の夜、声聴こえたからそうかなって思って。大丈夫。私が後片づけしとくから」

色々と事情を知っていそうな女性にその場を任せることにして、有村さんは仕事に向かった。
その日の帰りに不動産屋に行き、すぐに引っ越し先を決めたそうだ。




















































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