#916 映画論35|Dolls(ドールズ)
以前にまとめて北野映画を紹介してからちょっと空いてしまいましたが、久々にたけし映画を紹介しましょう。
本日紹介するのは2002年に公開された映画Dolls(ドールズ)で、たけしが「あの夏、いちばん静かな海。」ぶりに制作した恋愛映画となります。
物語の主たるストーリーに関してはHANA-BIにも通じるものがありますね。
HANA-BIが好きな人にはたまらない映画です。
そんなDollsですが、キッズ・リターンぶりにたけしが一切出てこないんです。
故に、僕もこれまで見たことが無かったので初めて見たんですが、メチャクチャ面白かった。
いつか北野映画ランキングも発表したいと思いますが、かなり上位に食い込むくらい僕の中で印象に残った作品です。
みんな~やってるか!の100倍面白かったです笑
Dolls(ドールズ)とは?
3組の全く別々の男女たちが物語で交錯し、それぞれの人生に希望を持とうとした刹那に「死」へ直面するという無情さを描いた作品です。
武が「これまでで一番、最も暴力的な映画である」と発言している通り、相当エグく、これを朝一で見てしまった僕は完全にうかつでした笑
1.元恋人同志
松本(西島秀俊)と、佐和子(菅野美穂)はつきあっていて、結婚の約束もしていたんですが、西島の両親がその結婚に反対し、社長の娘さんと結婚してくれ!と懇願し、松本は佐和子を捨てて、政略結婚に走ります。
しかし結婚式当日、佐和子が自殺未遂を起こしたと聞いて、式場を後にして車で向かうのですが、佐和子は記憶喪失に伴う幼児退行という後遺症が残ってしまうんです。
そんな佐和子を見捨てられず、松本は仕事も過去も捨てて、佐和子と共に生きる事を誓います。
2.ヤクザと待つ女
親分(三橋達也)は、ヤクザの世界で友を裏切ったり切った張ったを繰り返し、親分と呼ばれるくらいにのしあがったのですが、若い衆に恋バナを聞いた際、若いころ毎日土曜日に弁当を作ってくれていた良子について回想しました。
俺はビッグになるためにお前と別れる!と別れ話をしたんですが、良子は「私は毎週土曜日にこの公園のベンチであなたを待ってる」と伝え、それ以降も10年も20年も弁当を作り、ベンチで親分を待ち続けていました。
3.アイドルとファン
春奈(深田恭子)は映画の中でもスーパー・トップアイドルで、とにかく可愛いという4文字で表現できないレベルなんですが、そんな恭子に恋をするファンは鬼の様にいて、そのうちの1人が温井くんでした。
温井くんは警備員をしながら恭子を応援する恋する青年だったんです。
ちなみにこの曲を作中でも歌ってます。名曲ですね。
そんな感じでメインは西島&菅野美穂で、それ以外の2組の男女のストーリーも同時並行で動くという話です。
Dolls(ドールズ)の名シーンBEST10
10位 人形劇
まず人形劇から始まるんですが、これメッチャ怖いです笑
人形って怖いですよね?改めて日本人形の怖さを感じました。
で、この人形浄瑠璃で『冥途の飛脚』という作品が演じられているようで、その物語は女郎に惚れた飛脚が、女を連れて逃走するという物語で、それが物語のメタファーになるんですね。
9位 春の桜並木
そして物語は満開の美しい桜並木を歩く男女でスタートします。
西島秀俊と菅野美穂の2人は赤い紐でお互いの身体を繋いで、表情も無く歩く感じで、道を歩く子供に「繋がり乞食だ!」とバカにされます。
8位 赤い紐
幼児退行した菅野美穂は、おもちゃを盗んだり、車に轢かれそうになったりしてしまい、西島は車のシートに菅野美穂を縛り付けたのですが、それでも菅野美穂は移動しようとして・・・このシーンが一番辛かったですね。
西島は「ごめん」と泣き、そして自分も赤い紐を身体に身を着けて、菅野美穂と二人三脚のような形で繋がり、さまよい続けます。
7位 黄昏流星群
そしてシーンが変わり、親分と良子です。
親分が過去を思い出して公園に行くと、良子が座って待っていました。
ですが、親分の事を当時別れた男と同一人物と思い出せず、「彼氏を待っているので、彼氏が来たらどいてくださいね」的な事を言うんです。
親分もそれでショックを受けて、「俺があの頃の彼氏だ!」と言えないんです。
6位 夏のお祭り会場
季節は春から夏に移り変わります。
赤い紐をつけて夏祭りの会場を無言で歩く西島と菅野美穂ですが、その色鮮やかな演出が非常に秀逸。
そして途中で出てくるお面がメッチャ怖いんです笑
花園メリーゴーランドという最高に落ちる漫画を思い出しましたね。
5位 アイドル
「君は究極で完璧なアイドル」ですね。
20年前も今も、相変わらずいいナオンなんですが・・・そんな感じでアイドルとして絶好調な恭子に悲運が訪れます。
交通事故に巻き込まれて、片目を失明してしまうんですね。
そして芸能界を引退し、人と会わない僻地に移り住みます。
4位 秋の紅葉
そして季節は夏から秋に移り変わります。
この辺のビジュアルが映画のパッケージでも使われているので有名ですが、赤い紅葉、赤い紐、赤いドレスと、とにかくメチャクチャ色彩鮮やかなシーーンで、芸術的理解度が浅い僕ですら「美しい・・・」と思うくらい、なかなか秀逸な見ごたえあるシーンです。
3位 秋のバラ園
そしてシーンが変わり、隠遁生活を送る恭子の下に、盲目の男が訪れます。
それはかつてのファンの温井くんであり、片目を失った恭子を慮って、両目をカッターで切り失明するという「この世の果て」で横山めぐみの手下だった奴のような、「華と修羅」の慎太郎のような究極の自己犠牲の精神で恭子と向き合い、恭子に会って2人でバラ園に行きます。
2位 秋の公園
そしてシーンが変わり、親分と良子です。
親分は足しげく土曜日にベンチに向かい、良子は親分を思い出せないのですが、良子が「もう彼は来ないけど、あなた(親分)が来てくれるからいい」という嬉しいコメントをしてくれるのですが、そんな親分の下に銃を持った男が近寄り・・・
1位 冬の雪山
そして季節は秋から冬に移り変わります。
雪山を訪れた2人は気付けば人形の衣装をまとい、感情も出さず人形と変わらないような動きになるんです。
そして、あるレストランにたどり着きました。
そのレストランは、過去に2人が結婚を宣言した思い出のレストランで、西島が過去を回想するんですが、そこで菅野美穂に肩を叩かれ振り向くと…
このシーンも泣けます。本当に切なくなります。
Dolls(ドールズ)の魅力
1. 近くにいるのに見えない「愛」の物語
そんな3組の男女でですが、物理的な距離は近いのに、愛する人が見えないというのが非常に秀逸ですよね。
恭子は西島を思い出せない(見えない)、良子は親分を思い出せない(見えない)、温井くんは恭子が視覚的に見えないという感じでありながらも、希望を一瞬抱かせつつ、悲劇が襲うという非常に乾いて、悲しい展開なのですが、メチャクチャセンスを感じます。
たけしは天才ですね。
2. 映像の美しさ
そしてこれも本当に凄かった。
四季が織りなす日本の風景は本当に宝なんだなと思わせる完璧な演出。
僕ですら感じたくらいなので、多くの方がアートを感じるでしょう。
3. Dolls(人形)というタイトル
西島と菅野美穂が歩いて、毎回服装が変わるんです。
その服装が毎回オシャレで、浮浪者のリアリティは無いんですが、あくまでそれは「人形」だから、着せ替えられるんですね。
リアリティより芸術を求めたのが非常に秀逸で素晴らしいです。
まとめ
そんな感じでバイオレンス色はあまり無いんですけど、心に来るダメージは下手したら一番大きいかも知れない、たけしが「これまでで一番、最も暴力的な映画である」と言っていたのも頷ける名作でした。
もっと昔に見たかったですが、その時は難解であまり理解できなかったとも思うので、今このタイミングで見て正解だったかもしれません。
非常に悲しくも、美しい映画です。
是非チェックしてみてください!