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授業中寝ないように対策したら目が開けられなくなった

 学校や塾の授業中に寝そうになったとき、生徒がとれる選択肢は二つだ。諦めて睡眠欲に身を任せるか、眠くならないように対策をするか。当時中学生だった私は、眠くならないよう対策を講じることにした。真面目だったわけではない。寝た結果先生に怒られるのが怖かったのだ。
 まず真っ先に、コーヒーを飲んでみようかと思った。コンビニや自販機で売っているので手軽に入手できる。実際周りの友人達も飲んでいたので、効果のほどを聞いてみたところ、一様に「最初のうちは効くけど、慣れるとだんだん効かなくなってきて、もっと飲まないと起きてられなくなる」とまるで薬物中毒者のような言い草が返ってきた。恐れおののいた私は、カフェイン摂取という選択肢に大きくバツ印をつけた。
 スマホもない時代のことで、中学生の脳味噌単独では他に良い選択肢も思いつかず、悩んだ末に私は己の痛覚に頼ることにした。眠くなったらすかさずシャープペンシルを手の甲にブッ刺すのである。しかし傷跡が残るのが怖いので、どうしても刺す時に加減してしまい「痛みによって眠気を消し飛ばす」という試みは中途半端に終わっていた。
何か代わりになるものはないだろうか。
塾の講義の前の昼休み、考えながら塾の真下のコンビニを徘徊していた時、たまたまブレスケアが目にとまった。直径5mmくらいの、丸くて、噛むとプチュっと潰れて中からミント味の液体が出てくる、カプセル型のやつだ。ああいうのは口の中がスース―するんだろうな、と思った時に私は閃いた。
このスースーを目の下に塗れば、眠気覚ましになるんじゃない?
思いついてからの行動は早かった。私は5秒で30粒入りのブレスケアを購入した。これでもう眠気と闘わなくて済むんだ。謎の解放感にとりつかれた私は、1時間後、塾の講師が板書している隙にブレスケアを2粒潰し、粘性のある液体を素早く両目の下に塗った。
異変は3秒後に起きた。
まず、目の周りがじんじんと痛み出した。直後に涙がドバドバ流れだした。眼球がとにかく痛くて目が開けられない。頑張ってなんとか薄目を開けても、涙で滲んでまったくホワイトボードが見えない。というか痛すぎて講師の声すらまともに聞き取れない。いきなり授業中に泣きだしたと思われてはまずいので、私は急いで下を向いた。涙がぼたぼたとノートに落ちていく音がやけに大きく聞こえた。とりあえず液体を拭きとろうと、ティッシュで目の下を押さえようとしたらそれもまた新たな刺激になって涙が流れた。とにかく痛い。ビリビリとした痛みが止まらない。しかし流石に手を挙げて「ブレスケアを潰して目の下に塗ったら痛くて涙が止まらないので洗面所に行かせてください」とは言えない。ハンカチで涙を吸いつつ(拭うとまた刺激になるからだ)目をおさえて、ひたすら痛みが引くのを待った。結局、痛みが消えるまで5分ほどかかった。私は己の愚かな試みを心底後悔した結果、再び原始的な方法「シャープペンシルで己を刺す」に立ち返ったのだった。
 さて、昔の己のしょうもない試みを書くにあたって同じような経験をした仲間を探すべく、インターネットで「ブレスケア 目の下に塗る」でGoogle検索をかけてみたが、悲しいことに同じような経験をした馬鹿者は見当たらなかった。続けて、「メントール 眠気覚まし」で検索したところ、「メンソレータム(リップクリーム)を目の下に塗るのは効果がありますか?」という質問が知恵袋に複数件あったが、さすがにリップクリームとブレスケアの液では食器用洗剤と塩酸くらい危険度が違うので一緒にするのは無理があるだろう。少し前に「人の振り見て我が振り直せ」という話を書いたが、あまりに馬鹿らしすぎることはそもそも誰もやらないので、私は思いつきのまま決行してしまい「人の振り第一号(あるいは他山の石第一号)」が出来上がった。というわけで、この記事は「これから目の下にスース―する何某かを塗ろうとする人」をこれ以上増やさないために書いた。
 さて、こんな失敗をしたにもかかわらず、5年後には危険な人体実験を試みて低温火傷をすることになるのだが、それはまた別の機会に。

おわり。

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