Emmanuel Todd新刊=フランスの社会科学と思想の自由の危機
Fondation Jean-Jaurès(ジャン・ジョレス財団)
信頼できる組織であり、以下は信頼性の高いウェブサイトだとされています。
で容赦なく叩く
で、Emmanuel Toddの新刊「西洋の敗北」を容赦なく且つ気持良い程に叩きまくる書評。
要約
エマニュエル・トッドの最新著書は、大手出版社ギャリマール社から発行されたことで大きな注目を集めました。しかし、この書籍の内容は大きな問題があり、知的な価値は皆無に等しいと言わざるを得ません。
まず、この書籍の最大の問題点は、中核をなす概念的な枠組みそのものが不適切で、現代の学術レベルから見れば全く的外れであることです。トッドは「西洋」という概念を二つの定義で提示していますが、いずれもまったく根拠がなく、都合のよい定義のみを恣意的に選んでいます。さらに、プロテスタンティズムが資本主義の興隆と関係があるというマックス・ウェーバーの主張を根拠に持ち出していますが、この点に関してはウェーバー自身が間違っていたと、後の研究で明らかにされています。つまり、トッドの中核概念は全く学術的な土台を持たず、単なる論理的ひずみにすぎません。
また、トッドはこの書籍を通して自説の正当性を主張するため、多くの事実や研究成果を意図的に無視しています。例えば、アメリカにおける宗教性の低下について、現実の急進的なキリスト教勢力の台頭を無視して憶測で論を進めています。そのため、この書籍における議論は常に現実から遊離してしまっています。
さらに、トッドはしばしば不適切で不正確な概念や用語を用いており、引用する研究者の見解を完全に誤解していることが多々見受けられます。読者を意図的に誤解させるような言い回しも目立ちます。また、論理的な飛躍や矛盾がありふれており、結局のところ自説に都合の良いように事実を挿げ、そうでない場合は無視する、典型的な「論点先取り」に陥っています。
加えて、トッドはこの書籍を通して、過激な対米的人種差別的な発言を繰り返しています。特にアフリカ系アメリカ人やユダヤ人に関する記述は、露骨な差別発言と受け取られても仕方のないレベルです。例えば、バイデン政権におけるアフリカ系アメリカ人閣僚の存在を「WASP(白人新教徒)エリート崩壊の証し」と暗に解釈しようとしています。また、ユダヤ系アメリカ人が戦争の背後にいて、ウクライナ人を虐殺しようとしているといった陰謀論めいた発言さえ見られます。
最も危険なのは、トッドがロシアのウクライナ侵攻を正当化する論理をそのまま支持していることです。プーチンのインタビューで示された露骨な領土的野心を無視し、ロシアの「防衛」という主張をただの受け売りにしています。さらに、ロシア国内のユダヤ人差別の実例を隠蔽しながら、ウクライナ側の「ユダヤ人差別」を持ち出すなど、ロシア側の宣伝をそのままの形で書き写しているかのようです。ブッチャなどでのロシア軍の蛮行についても一切触れられていません。
このように、トッドの書籍は誤りや偏見に満ちた内容であり、知的な価値はほとんどないと言わざるをえません。しかし一方で、この書籍は単なる思想の扇動と宣伝でしかなく、保守主義的なイデオロギー運動やロシアのプロパガンダに与する影響は無視できません。ギャリマール社が、こうした問題作を出版した背景については、営利目的のほかに、出版界における同質性の高まりなども指摘されています。
知的な書物として見れば、この書籍はあまりにも粗雑な内容です。しかし、社会現象として見れば、フランス知識人層の一部が、こうした人種差別的で宣伝的な内容の書物を支持し、擁護していることが危惧されます。トッドの見解を本気で支持する層がいること自体が、フランスにおける社会科学の健全性と、自由な思想の場の確保が危ぶまれていることを物語っています。知的な対話の空間の狭まりは、民主主義社会にとって憂慮すべき事態であり、私たちは目を逸らしてはなりません。
感想
ここまで叩けば実に清々しい。… ある意味民主主義が機能している証拠であると感想を持ちました。ここまで叩けば、逆にEmmanuel Toddを知らぬ人も読んでみようか?という気もしないでもありません。Emmanuel Toddが語ったここ数年の分析は、私は当たっていると思う一人ですから、だからと云って敬愛する気持ちとTrackingをやめようとは思いません。これからの未来がどうなるか? で、きっと時間が証明するんでしょうね。Olivier Schmitt氏はデンマーク南部大学の政治学部准教授で、国際関係論・安全保障論が専門です。彼がNATO の平和と安全保障の科学プログラムの科学委員会のメンバーであることもここで明記させて頂きます。