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もし村上春樹がノーベル文学賞を受賞したら

今年は10月8日がノーベル文学賞の発表らしいです。
書店員として一応要チェックですね。

数年前「いよいよ春樹氏の番か?」という機運が最高潮に高まった際、職場のレジ横のパソコンで受賞者発表の画面を開き、その瞬間をいまかいまかと待ち構えていました。閉店間際になってついに発表されたのですが(例年日本時間の20時ぐらいに出ている気がします)、なんとまさかの「ボブ・ディラン」。あれには腰が砕けました。もらっていない作家がいくらでもいるのに、なんでミュージシャンやねん。

私もさほど詳しいわけではないですが、ポール・オースターやコーマック・マッカーシーが受賞していないのは不思議です。余談ですが、サルトルが1964年に受賞を辞退したと聞いてカッコいいなあと思ってしまいました。これも実存主義でしょうか(たぶん違う)。

ちなみに有名な話ですけど、村上春樹さんは受賞を望んでいません(詳しく知りたい方は「職業としての小説家」という本を読んでみてください)。でも2017年にカズオ・イシグロ氏が受賞したことでまた期待が膨らんでしまいました。両者の作品の世界観が似ているかどうかは読者の受け止め方次第ですが、少なくとも私の知っている村上主義者は概ねカズオ氏も愛読しているのです。

受賞となれば、当然全国の書店がフェアを展開するでしょう。とはいえ著作の数が膨大ですし、普段から積まれているベストセラーも多いので、ここで新鮮味を打ち出すのはけっこう腕が問われます。もし私が担当なら「ノルウェイの森」「ねじまき鳥クロニクル」「海辺のカフカ」「騎士団長殺し」などの定番はあえて除外し「村上春樹ってこんな人フェア」にします。

まずデビュー作「風の歌を聴け」から始まる「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」の三部作。これは絶対積みます。さらに「風の~」の英訳版。短い話で難しい表現も使われていないので、日本語版を横に置けばすぐ読めます。あと前述した「職業としての小説家」も欠かせません。作家になった経緯や小説の書き方、推敲の流れなどが紹介されているので、そのことをPOPで打ち出したらお客さんも「おっ」となるはず。

続いては翻訳セクション。春樹氏がこよなく愛するフィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」は必須です。そして初期の作品に影響を与えているレイモンド・チャンドラーも外せません。ただ正直全てが傑作というわけでもないので「ロング・グッドバイ」「さよなら、愛しい人」だけにします。親交のあったレイモンド・カーヴァーの短編集も入れたい。いろいろありますが「頼むから静かにしてくれ1」「頼むから静かにしてくれ2」が入門編として最適かと。春樹氏の訳に触れることで「こういう本が好きだからああいう小説を書くようになったのか」と自分なりの答えを見出せるはず。これらと内容が関連する柴田元幸氏との共著「翻訳夜話」「翻訳夜話2サリンジャー戦記」もオススメです。そして春樹文学の英訳者として名高いジェイ・ルービンの「村上春樹と私」をぜひお手に取って欲しい。

次は絵本。まずは春樹氏が訳した「おおきな木」「ポテト・スープが大好きな猫」を積みます。後者は文庫になっていますが、できればハードカバーで。あとは「ねむり」「バースデイ・ガール」かな。いずれも読み終えた人の心に不思議な余韻と大いなる謎を残し、もっとこの世界に浸りたいと思わせてくれます。

最後はノンフィクションとエッセイ。地下鉄サリン事件の被害者と加害者に春樹氏がインタビューをした「アンダーグラウンド」「約束された場所で (underground2)」は最重要作品です。作家としてではなくひとりの人間、この時代に生きる一社会人としての彼の姿勢に触れることができます。エッセイはたくさんありますが、ここは輪を掛けてゆるゆるな「村上ラヂオ」三部作でいきましょう。春樹氏の本を何か読みたいけど何を読んでいいかわからない人にオススメ。くだらないといえばくだらない内容だけど、決して損をした気分にはならないはず。あと「もし僕らの言葉がウイスキーであったなら」「ポートレイト・イン・ジャズ」も入れておきます。旅とお酒、そしてジャズは春樹氏に欠かせない要素ですから。

どうでしょうか? 書店員じゃなくてもこういう妄想をしてみるのはなかなか楽しいと思います。皆さんもぜひどうぞ。









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