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「真剣勝負」を解体する

掛布さんが思わずそう言ってしまった気持ちは理解できます。相手が真っ直ぐしか投げないとわかっているのだから、そこはフルスイングで応えるのが礼儀だろうと。すでに勝敗の決した場面ですし。

ただ重信選手はその前に出てきた坂本選手や中島選手みたいな、不動の地位を築いたスターではありません。ここから上を目指すために少しでも結果が欲しい。ならばヒットを狙いに行くバッティングをするのは当然の選択です。プロとしてのシビアな真剣勝負。責められることは何もありません。掛布さんだって本当はわかっているはず。

あと誤解しないで欲しいのは坂本&中島両選手の三振について。あれも真剣勝負です。物事の上っ面だけを見て忖度とか空気を読んだとか、そんなありふれた言葉を当てはめてわかった気になられると切ない。実際に何か大きな目標と闘う人生を送っている人ならわかると思うのですが、真剣勝負の型はひとつじゃありません。真っ直ぐとフルスイングの激突だって真剣勝負だし、変化球と当てに行くバッティングの対決も真剣勝負。そして辞めていく偉大な選手の最後の直球に対して全力でバットを振ることも真剣勝負なんです。

プロの世界は弱肉強食。食うか食われるか。営業会社で働いていたころに朝礼で「結果が全てだ」と何度も言われました。泣きたくなるほど、毎朝吐き気を催すほどの厳しい競い合い。でもだからこそ一定の成果さえ上げていれば、同じ境遇で生きているライバルへの一抹の優しさをシビア過ぎる真剣勝負とギリギリのバランスで共存させられる。本気で闘って生き残った者にしかわからない何かが存在するんです。忖度なんて馴れ合いとは似て非なるものが。

あえて言葉にするなら「武士の情け」が最も近い表現でしょうか。生きるか死ぬかの殺し合いをしなければならない者同士だからこそ通じ合う何か。本当は言葉にするのも無粋でただ感じ取ればいいことです。

最後に藤川選手、おつかれさまでした。いろいろ思い出はありますが、特に2007年のペナント終盤と翌年のCSにおけるタイロン・ウッズとの対戦は一生忘れません。男の自己満足ではない、あくまでもシビアに勝ちをつかむための直球勝負がこの世にあると教わりました。勝ちと負けは天国と地獄。だからこそあなたの投げる姿はいつも眩しく見えました。心からありがとう。



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