芸術家は弱者の味方
書評行きます!
「レディ・ジョーカー 上」 (新潮文庫) 新潮社 高村薫著 2010年出版 512P
(以下、読書メーターに書いたレビュー)
著者初読。松本清張的な社会派サスペンスか。フィクションと思わせぬ緻密な描写と構成に感服した。特に警察と新聞社における人間関係やルーティーン、重大事件報道の裏側の生々しさ。殆ど密着ドキュメント。主人公側の強いられた不条理の重さを思えば大企業への復讐もやむなしと云いたいが、被害者側の全てが悪というわけでもないのが現実的(去年キリンビールの経営努力に関する新書を読んだがゆえの肩入れもある)。ただ罪の意識も悪気もなく悠然と弱者を踏んづけていく人間は少なからずいるわけで、ひと泡吹かせたい気持ちは理解できる。中巻へ。
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単行本は1997年出版。読友さんのレビューに寄せられたコメントによると、この著者は版が改まるたびに改稿するタイプらしいです。文庫化する際に手を加える作家はめずらしくないですが、今作に関してはどうやら単行本でも初版と重版で内容が変わっているとか。デリケートなテーマを多数扱っているので、時代に合わせたアップデートを丁寧に施しているのかもしれませんね。
発信側がデリケート=扱いづらい、炎上しやすいということで避けて通ったりクレームを防ぐためだけに無難なきれいごとで済ませたりしていたら、状況は何も変わりません。一方、読み手側の良かれと思っての抗議が表面的な「言葉狩り」を生む土壌になってしまうのも問題です。言葉と共に過去の悲劇もなかったことにしてしまう危険性があるからです。それらを防ぐためにこそ作家は時には炎上覚悟で言ったり書いたりしなければならないですし、読み手も言葉の使われ方や込められた意図をしっかり汲み取って判断しないといけない。芸術家は弱者の味方。これは太宰治が「畜犬談」などいくつかの作品の中で語っている持論ですが、濃密に描き込まれた本作の端々からも著者のそういう気持ちを感じました。
ちなみに作中に出て来る「日之出ビール」という会社はラガーが売りということもあって「キリンビール」がモデルと思われます(実際の「キリン~」が「日之出~」みたいな企業体質なのかはわかりませんが)。上記のレビューで触れた新書は「キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え!」(講談社+α新書)という本です。アサヒのスーパードライにトップシェアを奪われた後の逆襲のプロセスが熱く語られています。今作の時間軸と重なっているので、併せて読むとより深くのめり込めるはず。
いつか単行本も読んでみたいです。その前にまずは中巻!!!