見出し画像

「文学フリマ東京38」にて

 二〇二四年五月十九日、東京流通センターにて行われた「文学フリマ東京38」に行ってきた。前回は彩ふ読書会メンバーとして出店側にも立っていたが、今回は純粋な来場者として参加した。ちなみに前回のイベントレポはこちら。

 今回の文学フリマ東京には事前に出店を告知をしてた気になる参加者も居たため、前々から行くことはぼんやりと考えていたのだが、恐らく一人だと当日になって「やっぱり行くのめんど」となりかねないので、前もって読書会の仲間と一緒に行く約束をすることにした。
 会場に着いたのは午後一時半頃だろうか。すでに開場していて、会場には多くの人が詰めかけていた。なんとなくの予想で、今回から文学フリマには千円の入場料がかかることとなり(東京会場のみ)、なので何の気なしにふらっと訪れることが難しく、前回よりも少しは来場者も落ち着くのではないかと思っていたのだけど全然そんなことはなく、訪れた第一展示場は通路いっぱいの来場者で溢れかえっていた。私もいち来場者の分際で何を言ってるんだと思われるのかも知れないが、「そこまでして皆を会場へと駆り立てるものは何なのだろうか」と不思議に思った。

 入手したものは以下の通り。

並べ方が難しかった。

 今回は事前にカタログでチェックして買うと決めたブースだけを見るかたちにした。私が訪れていた時間はゆっくりと見て回るというのは難しく、決めていたブース以外に足を止めるということはなかった。まあ予算的に購入ブースを絞ったというのもあるが。
 あれから一週間が経ち、一通り読むことが出来たので、簡単な感想を添えて紹介していく。

京都ジャンクション『東京流通センターありがとう座談会』
 芥川賞作家である高瀬隼子さんが所属するサークル。今回新刊は無かったのだが、今回で会場としては最後となる流通センターでの思い出を座談会形式で綴ったものがフリーペーパーとして配布されていたので頂いた。内容も流通センターの思い出に限らず、文学フリマが与えた創作欲への影響についてが興味深かった。

文學界編集部 クリアファイル2
 今回初出店で、事前にXで見て気になったブース。新人賞の下読み委員による匿名アンケートを掲載した『出張版文學界第1号 大解剖!文學界新人賞』が欲しかったのだが、私が立ち寄った頃には完売していた。「文學界」の文字が並んだクリアファイルも気になっていたので、そちらを購入した。

BIG FLAT MAMA『夏影は残る』(著:杉森仁香)
 こちらはXのフォロワーさんで第三十回やまなし文学賞を受賞された方のブース。購入したのはその受賞作である『夏影は残る』。高校一年の「わたし」の前にふいに現れた「ソレ」としか言いようのない影と、眠りながら無意識的な行動を起こす叔母との暮らしを通じて「わたし」の心情を丁寧に描写していくその生き生きと文章が魅力的で、とても良質な短編小説だった。

裸眼無加工大学『女たち』(著:奥野紗世子)
「逃げ水は街の血潮」で第一二四回文學界新人賞を受賞した方の参加しているブース。私はその受賞作が好きで、全部ではないが作品もいくつか読んでいる。『女たち』は自作のスピンオフとも言える小説だとXで言っていたので気になって購入した。確かに過去に書かれた作品のなかで私も見たことある名前の人物が主な語り手となり、彼と、彼にまつわる女たちによる短編が五つ収録されている。収録作「ザボン」に私の好きなデビュー作で書かれていたアイドルグループが登場したのは嬉しかった。あの作品のクライマックスと『女たち』の最後の短編がリンクして、語り手の男が「逃げろ」と思う場面は痛快だった。

青春と恋と崇拝とか純文学『素敵なことばたちのもとに』(著:簪なぎさ)
 前回の文学フリマ東京で偶然立ち寄り、冊子を購入したブース。その時は『神』という作品を買い、イベント後に既刊だった『二十一』をネットで買って読ませていただいた。比喩を用いた浮遊感のある独特な文章表現をされる方で、今回新刊は無かったのだが、詩を印刷したポストカードセットを販売していたので、今後の活動の応援になればと思い購入した。

ハモニカドーナツ『夢想文学~秘ノ書~』(著:夢想読書会)
 武蔵境を拠点として読書会を行っている夢想読書会さんの参加者有志による「秘」をテーマにしたアンソロジー。前回の文学フリマ東京にて主宰者さんが彩ふ読書会の『彩宴vol.3』を購入していただき、その後に行われた『彩宴vol.3』読書会にも来ていただいたことが縁で、今回は夢想読書会さんのアンソロジーを購入した。読書会という括りで作っているので、当たり前だが出来上がった本にはそこに集う人らの色が良く出る。特に「座談会」のページでは、普段の読書会の雰囲気をそのままパッケージ化した印象を受けた。私が良いなと思った作品は「個人的に思う」「風さらり」「取るに足らない秘密」の三作。

 会場を後にし、浜松町のカフェで一緒に行った友人らと戦利品紹介をしたのだが、それぞれに購入品のジャンルが違っていて面白かった。ある友人は動物に関するものが多く、ある友人は東京に関する本や風変わりな体験記を買っていて、ある友人は小説、文芸誌、短歌などをトートバッグいっぱいに購入していた。友人らの購入本を見ながら、普通の書店には並ばないようなニッチな本が集まるのも文学フリマの面白いところだと感じた。

 東京での次の開催は十二月の東京ビッグサイトとなる。今までとは違う規模感になるので、どういった雰囲気になるのか予想もつかないが、出店者の「読んでくれ」と来場者の「読みたい」の攻防はますます膨らみ続けるのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?