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生まれて初めてファンクラブに入った話

「ファンクラブ」には甘酸っぱい響きがある。
それゆえに一部の人間には忌避の対象になる。
「ファン」という言葉がもうだめ。使うと不安になる。
誰かのファンですと言うと、自我が溶けたような気がして不安になる。
実際はファンなんだけど、言い換える言葉を探してしまう。
「好きです」とか。
そっちのほうがヤバい。
考えすぎて愛の告白みたいになってる。
それならもうファンでいいと思って「ファンです」と言って、すぐに「イタいファンじゃないです」と言い訳したくなる。
なんだそれ。
ファンはすべてイタいと思っているのか。
どう考えても自分のほうがイタい。
自意識が過剰すぎる。
というか、自分みたいな人間にファンと言われても、言われたほうが困るだろうと考えているのだ。できればこのnoteのように遠くから応援したい。
陰キャなので「クラブ」という言葉もあまり好きではない。
踊るほうのクラブも、お酒を飲むクラブも、中学高校のクラブ活動も楽しめたことがない。
それなのに入ってしまった。
3markets[ ](スリーマーケッツ)のファンクラブに。
だってスリマのカザマさん、「誰も入らない」とか言いそうだったし。

そもそもロックバンドにファンクラブなんかあるのか。
調べたらいっぱいあった。
資本主義の世の中である。
需要があるからファンクラブが供給される。
とはいえロックバンドである。
アイドルではないのだ。
筋肉少女帯は「50を過ぎたらバンドはアイドル」と歌っているが、まだ50を過ぎてなくてもファンクラブをやっていいのか。
まあ、筋少だって昔からファンクラブはやっていた。
最終的には、事務所のマネジメントである。
バンドもライブもおおぜいのスタッフが必要だし、報酬が発生する。
稼がないとバンドメンバーもスタッフもただ働きになってしまう。
それはいけない。

しかし「売れないバンドマン」のスリマがまさかファンクラブとは。
資本主義はなんでも飲み込む。

音楽なんてやればやっただけ金と数字の話ばかりだ
何人入ったとか何枚売れたとかそんなもんどうだっていいんだ

3markets(株)「売れないバンドマン」

スリマのカザマさんはかつてこんなことを書いていた。

こないだ某バンドの人に「CDを買ってくれたら写真を一緒に撮りますって言ったらCDが売れた」という話を聞いた。
それを聞いて、それはいいアイデアだ。ただ、それをやったらロックバンドとして死ぬ。という話をして、そうだねーという話になったのだけど、その話をしてから数日、とても悩んでいた。
グッズを売るということに対して。
じゃあ、アイドルが撮るチェキとバンドが売る缶バッチにどれだけの違いがあるんだ。どっちも人気的なものにあやかって、お客さんからお金をとるだけで、そこに音楽的な意味がどこにあるというんだ。

カザマタカフミ『売れないバンドマン』

真面目だ。こういうバンドマンもいるのか。
でも物販やらないと、音楽やる余裕なくなるし…。
実際、CDの販売もあるから、物販やらないバンドなんて見たことない。
たしかにファンクラブをやらないバンドもある。
企業経営的に言えば、顧客の囲い込みとロイヤリティの向上が見込めるから、やらない理由はない。
しかし、資本主義に中指立てるバンドマンならやりたくないだろう。
やるとしてもあまり目立たないようにやっている。
恥ずかしいから。
スリマのファンクラブも、サイトをよく見ないと見つからない。
最初は、これ本当に稼働してるのかなと思って入会がためらわれた。
それくらいひっそりやっている。
なんだか背徳感。
余計に恥ずかしい。

恥ずかしさを払拭するために運営側もいろいろ考えている。
たとえば、岡崎体育のファンクラブ名は「Wallets」だ。日本語にすると「財布」。
ファンクラブを露悪的に「財布」と呼ぶことで、会員に「私たちはイタいファンじゃなくて金銭的なサポートをしているだけだから」と思わせている。
ヤバイTシャツ屋さんの場合は「顧客倶楽部」だ。
同様に「ファンじゃなくてフラットな顧客だから」と思わせている。
ヤバTの場合はもはやファンクラブという言葉すら使わない。ファンは「顧客」と呼ばれているから「顧客倶楽部」。
東京初期衝動のファンクラブ名は「新興宗教東京初期衝動」で、ファンは「信者」だった。みんな素直にファンにさせてくれない。
というか自意識が高すぎて、「ファンクラブ」よりも「集金装置」と言われたほうが入りやすい(ひねくれたファンの感想なので真に受けないでください)。

さて、スリマのファンクラブ名は「スリマ村」である。
ファンクラブの恥ずかしさを「村」のかわいらしさで中和している。
会員は「村人」と呼ばれている。
「どうぶつの森」みたい。
ファンクラブの中身については、他のファンクラブに入会したことがないので比較できないが、どこも同じかもしれない。
ライブチケットが先行で入手できるとか、限定写真や限定配信が見られるとか、メンバーの日々のつぶやきが配信されるとか、限定グッズや限定イベントがあるとか、熱心なファンのニーズを満たすものだ。
つぶやきをずっと追っていると、運営側の苦労がよくわかる。
というか、いただいている会費に対して十分なリターンをしなければとカザマさんが頑張る様子がすごく伝わってくる。
投稿する側にすれば、宣伝としてやっていたSNSを有料にしたようなものなのだ。ハードルはあがっている。
でも見るのはファンだから満足のハードルは低い。
公式サイトで運営側の述懐を見つけた。

・2023/12/01
まさかのファンクラブ(スリマ村)設立。それはもう全メンバーが戸惑う。
ファンクラブってそもそも陽キャがやってそうだし、イケメンとかアイドルを養うための集金だと思っていたのですが(個人の感想です)
実際ですね、ウチの規模間でやるとですね、スタッフ1人分の給料にもならない規模間でしたね(照
つまりここは、陰の者たちが狭いところで陰の者たち同士、仲良くやれる場所「安息の地」として設立されたと思うことで納得いたしました。(個人の感想です)

Biography - (3markets.com)

会員が増えれば、カザマさんも深夜の病院受付のアルバイトやめられるのかな。それともさすがにもうやめているのかな。


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