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ポンコツストーリー4 -奇妙なジオラマを作る少年-

前回のポストで、私の幼少期の芸術性を垣間見れたかと思うが、今回は中学生時代の芸術センスからポンコツ具合を考察してみたい。


中学生ともなると、大抵の男子はプラモデルを作る。
少なくとも、私が中学生の頃はプラモデルがまだ人気であった。
ガンダム、車、戦車、お城など人それぞれの趣味嗜好に沿ったプラモデルがある。
私はといえば、父が車好きであった事から、父と一緒に車の本を見て自分の好きな車や、父の好きな車なんかを作ることが多かった。
どちらかといえば、最新の車というよりも古い車を作る事が多く、父がレースで乗っていたホンダS600やその当時の日本車、ミニやシトロエン2CV、ロータススーパー7といった海外の特徴のある車なんかはよく作っていた。

近所の模型店では、販売促進の目的もあったと思うが、年に数回プラモデルコンテストが開催された。
優勝した作品は、近所の子どもたちならば必ず行くその模型店のショーケースに作品が並べられ、皆から羨望の眼差しで作品を見られる有名人になれるという特典がある。
もちろん他にも賞品などがあるのだが、そんなことよりも皆から一目置かれる方が特典としては大きかった。
私も過去に数回、ただ組み立てて色を塗っただけの作品を出品したことがあったものの、当然何の賞ももらえなかった。
作品数は毎回かなりの数に上った。

賞を取るような作品は、模型の大きさや技術力に加え、ジオラマと呼ばれる模型の周りに風景や情景を作り出したものが多かった。
戦車が泥だらけになりながら沼地を進んでいく様子や、ガンダムの戦闘シーンなどをリアルに作りこんでいった作品こそが賞を取るには不可欠であった。
それらの作品は、今にも動き出しそうで、見ているだけでも楽しかった。

賞を目指すにはジオラマを作る必要がある。
私は、ある模型店で車のガレージのキットを見つけた。
ガレージの床に壁が二面準備されていて、壁には棚などを取り付けることもでき、他にもたくさんの工具にツールボックスやバケツなど、ガレージにありそうなものが多数付属していてガレージだけなのに見ていてワクワクするキットだった。
ジオラマを作るのが面倒で、でも賞を取りたくてという面倒くさがりな私のような偽アーティストにはうってつけだ。
このキットに、スケールのあった車を置いたらそれだけで絵になるだろうとこのキットを購入し、コンテストへの参加を決意した。

キットに合わせた車は、屋根を赤く塗っていた記憶があるので、初代マツダキャロルだったと思う。

ちなみに、サムネイルに使った写真にある車がそれだ。トヨタ博物館に展示されているらしい。私もプラモデルでしか見たことがないのでいつか実物を見てみたいものだ。


ガレージに色を塗り、車も丁寧に仕上げ配置してみた。
ガレージに車が停まっている。
最初はそれで満足だった。

満足感で満ち足りた心で眠りにつき、翌朝。
満足感と共にもう一度完成したキットを眺める。
本来なら、このまま模型店に持ち込みコンテストへの参加を済ませるはずだったのだが、作品をよく見る。

何か物足りない…

そうだ、一日たってみたら何か物足りないのだ。
上位入賞者たちの作品を思い浮かべてみる。
彼らの作品は、リアルな汚れや傷、塗装の剥げなどがあった。
それと比べて、私の作品はすべてがピカピカの新品、つまりおもちゃっぽいのだ。

汚れが足りない

車のタイヤに泥汚れをつけ、車体にも小さな錆や塗装剥げなどを付けてみる。
ツールボックスやバケツも油汚れのような塗装を施した。
中々よくなってきた。
こうなってくると、もっとやりたくなる性格である。
今度は、ティッシュを小さく切り、グレーで染めて雑巾を作る。
絞ってみたものや、棚に干してあるものなどいくつか配置する。

床ももう少しタイルが剥がれていたりするとリアルかも…

床部分を削り、別のプラスチックの板で割れたタイルとはみ出た鉄骨を作る。
あれ?これなんだか廃墟っぽくてかっこいい!
もっとタイルと鉄骨がバリバリと出ている感じにしたい!
でも廃墟とガレージかぁ…
はっ!
何か思いついた。

私はおもむろに、マツダキャロルの車体を真ん中から半分に切断した。
カッターをろうそくの火であぶり少しずつ切断していく。
半分に切れた車体の前部分を床に立てる。
地下から床を突き破り車が出てきたイメージだ。
どんな状況なのか全く意味不明だが、車の周りにタイルや鉄骨、色々な残骸を配置していく。
床を突き破った設定なので、車にもさらに塗装剥げや汚れを施す。

中々よくなったな。

その時、ちょうど目に留まったのだ、ガレージキットに付属していた修理工の男性のフィギュアを。
これも置いてみたいという欲求にかられる。
しかし、人間をリアルに色を塗ったりするのは得意ではない、というかやったことない。

そっか!

また色々思いついてしまった。
想像力のダムの崩壊だ。
バケツの一つの中にボンドを流し込む。
固まったらクリアのダークレッドで色を付ける。
血のたまったバケツの出来上がりだ。
そこにフィギュアの手を立て、血がたれているような塗装も加える。
バケツから血みどろの手が出てきたイメージだ。
このクリアレッドの塗料が中々良い色だ。
頭部もこの塗料で血みどろになったようにして車付近に転がす。
飛び出た車の瓦礫付近に足を転がす。

『地下からガレージの床を突き破ったマツダキャロルと

   ばらばらになったガレージの作業員』


タイトルからして謎の謎ジオラマができた。
それなりに表現を選んで文字に起こしたつもりだが、文字だけでもかなりひどい作品。
だが、この時の私は非常に満足していた。
まさに中二病真っ只中の年齢なので、中二病大放出の作品である。
これを模型店に持っていき、コンテストに出品した。

めちゃくちゃお金がかかっていそうな大規模なジオラマ作品がすでに多数出品され飾られている。
戦車数台とたくさんの兵士たちが砂漠を進行していく作品、ガンダムの「ジャブローに散る」のシャア専用ズゴックとジムの名シーンを背景なども作りこんだめっちゃ素敵な作品など。

そんな製作日数も金銭的にもかなりかかっているであろう大物作品がずらりと並ぶ中、製作日数2日、サイズにしてA5サイズくらいの小さな私の作品が最優秀賞を受賞した。
いや、してしまったという方がふさわしいかもしれない。
選考ポイントは、「独創的な作品」とのこと。
ポンコツが思いつきで作り始めた作品は、まさかの結末を迎えたのだ。

優勝すると、トロフィーと賞品の巨大なプラモデルがもらえるのだが、繊細な私である。
優勝常連者の目が怖くて、たまたま学校が早く終わった平日に急いで家に帰り、みんながまだ店に来ないであろう時間帯に賞品を受け取りにいった。
作品はしばらく模型店に飾られることになった。
一定期間の後、自宅に持って帰ることも可能になった。
並み居る強豪の中、受賞してしまった肩身の狭さから持ち帰って、みんなの目に触れることなく忘れさられたほうが良いと思われたので持ち帰ることを選んだ。

もちろん、個人的にはこのジオラマは非常に気に入っていた。
自宅の、玄関の下駄箱の上にでも飾って置こうと思っていた。
しかし、親の反応はこうだ。

「気持ち悪いから捨てなさい!」

気に入っていたので、捨てるという選択肢は選べないポンコツ。
結局、模型店に再度持ちこみ、ショーケースの片隅に飾っておいてもらった。
この奇妙なジオラマは、この模型が朽ち果てるまで飾られていたという。

そんなジオラマと関係する映画など思いつかないので、今回は映画の話はありません。

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