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騙し、騙され -その4 エジプト・ピラミッド編-

前回までのあらすじ
定年退職したヒロシ。家族はおらず、これといった趣味もなく、毎日をただ淡々と過ごしていた。しかし、いつものコンビニ前にいる犬との交流によって「生きる」ということの意味を考えるようになる。


-エジプト・ピラミッド編-

初めての海外旅行はエジプトだった。
とてつもなく大きなものが見たいという欲求に突然かられ、なぜか自分の中でオーストラリアのエアーズロックかエジプトという二択になり、エジプトを選んだ次第だ。
初海外だし、英語もそれほどできない。
ましてやエジプトなんて広大な土地に遺跡が点在しているような国。
迷わずツアーに参加だ。
ただ、幼い頃から幼稚園を脱走する、修学旅行ではコースと違うところに行き怒られるなど、人と群れることを嫌い、人と同じことを嫌ってきた性格である。
ツアーというシステムをあまり良く分かっていないまま参加することになった。

空港に時間通りに集合、飛行機に無事に乗り、無事にエジプトについた。
盛りだくさんのツアーのため、到着してホテルに荷物を預けたらすぐに観光が始まる。
今思えば、カイロまで十数時間のフライト、その後休む事もなく観光開始とはかなりの強行ツアーだ。
事件は最初の観光地、カイロのピラミッド前で起こる。

余談だが、ピラミッドはびっくりするほど街中にある。
ピラミッドギリギリのところまで大きな道も商店もある。
なんなら、ピラミッドを眺めながら食べられるKFCもある。
砂漠のど真ん中にあると思っていた自分には衝撃だった。

そんなことはどうでもいい。
有名な3大ピラミッドと呼ばれる中で、一番大きいクフ王のピラミッドの前にいる。
でかい!
積み上げられた一つ一つの石も恐ろしくでかい。
これを山から切り出し、運び、積み上げた人たちの苦労に思いを馳せる。
自分という人間の小ささを思い知らされる。

ガイドさんはピラミッドの前でその大きさや歴史などを話している。
と、思われる。
なにしろ聞いていないから実際のところは分からないが、ガイドさんがピラミッドを前にして、自分の生い立ちなどや、柴又帝釈天の話を語るはずもないのできっとそうであろう。

私は少し離れたところにラクダがいるのを発見した。
ピラミッドにラクダ!
いかにもなエジプト像!
これは撮らねば!
もうピラミッドをバックにラクダを撮ることにしか思いが向かない。
ダバダバと走りながらラクダに近づく。
自分なりに構図を決め、これという場所でシャッターを切る。

パシャリ!

まさにこのnoteのカバーに使わせてもらった写真のような感じで。
写真を撮ったところで、背後から声がする。
振り返ると、エジプト人である。
何やら大きな声でまくしたてられる。

「英語分からんよ、喋れないし、理解できないよ」

そう言っても当然伝わるわけもなく。
ただ分かったのは、

「今写真撮ったろ?これを撮るにはお金がかかるんだ。さぁほれ、金だ、金よこせ」

的なことを言っているようだ。
ここで気づいた。
ガイドブックに書いてあったやつだ。
しかし、後の祭りである。
もう写真は撮ってしまった。

「I have no money.
  I forgot my wallet in the bus.」

財布はバスにあるから、今は金持ってないよと一生懸命伝える。
もちろん、本当は持っている。
ピラミッド前にはピラミッドの置物とかスフィンクスの置物が売っているかもしれない。
買わなきゃ!と思っていたから。
実際には売っていなかった。
それはともかく、相手もヒートアップしてきたのかさっきより声が大きくなっている。

困ったなぁ。
ポケットの中には飴が入っていた。
困った時やイライラした時、悲しい時は甘いものを食べると優しい気持ちになるんだよな。
そうか。

「I have candy.」

飴を手のひらに載せて見せる。
豆鉄砲をくらったかのようにポカンとするエジプト人。

「ほーらー チェルシー♪」

というメロディーが頭に浮かぶ。
ヨーロッパな感じの草原で小さな女の子たちが花で作った冠を付けてスキップしている。
実際にどんなCMだったか覚えていないが、脳内ではこんなイメージだ。

だが、ここはエジプトだ。
前にいるエジプト人はいかつく、花の冠もつけていなければ、ご機嫌にスキップもしていない。

もう、開き直るしかない。

とにかく今は飴しか持ってないから、飴ちゃん食べとき。
日本の飴ちゃんおいしいから。
だが残念ながらチェルシーではなく黒糖のど飴だ。

一つ渡す。

でも彼は、まだ何かをわめいている。
だが、キャンディーは彼の手の中にある。
そうか、足りないのか。

「もひとーつー チェルシー♪」

持っていた飴をもう一つあげた。

「Thank you, Thank you!
     Have a good day!」

握手しながらそういった。
彼も手を握り返してくれた。
私はその場を離れ、まだピラミッドについて語っているガイドさんのいる集団に加わる。
ツアーとは、怪しい人に捕まらないような場所で、トラブルに巻き込まれないようにきちんと考えられているのだ。
そこを離れてはいけない。
そう胸に刻んだ。

つまり、よく分からんと思うが結局飴を二つ渡して収まったのだ。
こうして、我々は人類最大の危機を乗り越えたのだ。
ありがとうキャンディー。
飴のおいしさは万国共通!

結論
嘘のように思うかもしれないが、これは実話だ。
自分で書いていても能天気過ぎやろと思うが実話なのだ。
事実は小説より奇なりである。

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