息をするのも下手くそなのか。
こんにちは,ぼんじーです.
#小説
です.
_______
今日は朝から、イライラとして機嫌が悪かった。
自分のちょっとしたミスから生じた、スケジュールの変更。
乗るはずのなかった電車。
黄色い点字ブロックの内側に立つ僕は、ホームに滑り込んでくる電車から自然と目をそらす。
すし詰めにされた人たち。
扉の近くにいる人たちは、「もう乗ってくるなよ。」とこちらを見ていた。
しかし、数本見送ったところで、この時間帯の混雑度合いは変わらないはずだ。
僕や、その後ろに並んでいた人は、無言で車内に身体を押し込む。
扉の両脇の手すりに寄りかかっていた人は、その場所を動こうとせず、椅子に座っている人たちは、混雑具合など無関心だ。
本当にこの人たちの全員が、この首都圏で働く必要があるのだろうか。
地方で、もっとゆとりを持って働けばいいじゃないか。
扉が閉まる瞬間、周囲から身体を押し付けられ、息が詰まる。
僕はスマートフォンを操作し、メールボックスを開いたが、すぐに閉じた。
事務仕事が一つ増えた。
こんなこと、僕がしなくてもいいだろう。
コンピュータか、もっと暇な人にやらせればいい。
僕は、小さくため息をつき、車内の電光掲示板に目をやった。
就職サイトの広告が流れている。
「今から始めよう」「ライバルに差をつけろ」「説明会の席が埋まってしまいます」
ふう。
僕は耐えられなくて、再び目をそらした。
中吊りには、学習塾の広告。「今から始めよう」「ライバルに差をつけろ」「春期講習の席が埋まってしまいます」
皆、自分の場所を確保するのに必死だ。
他人を押しのけて、自分の席を手にしなければならない。
僕が寄りかかっていた扉とは反対側の扉が開く。
「すみません。」と、僕はスーツ姿の人たちを押しのけ、また同様に電車から降りようとする人たちに揉まれながら、ホームに降り立つ。
ホームには、電車から降りる人がいなくなるのを待たずに、車内に乗り込もうとする人たち。
改札階に向かう階段には、下車した人が殺到する。
スーツを着た人たちは、僕に肩をぶつけ、押しのけ、自分の道を進み、僕の肩が彼らに触れると、振り向いてこちらを睨んだ。
僕も睨み返す。お前、何様だよ。と。
人を押しのけ、ぶつかられ、溢れ出そうな自分の気持ちを抑える。なんとか改札にたどり着き、それを抜ける。この近辺は学生街だ。
今日は平日だというのに、昨晩から酔いつぶれて、うなだれるようにベンチに座っている若者。中身の入ったまま放置されたカップ麺やペットボトル飲料。
一組の男女が、フラフラと駅に向かって歩いてくる。
「うちらさー。来年シュウカツだよ。やば。」
「だなー。俺、何もアピールするとこないわ。ただ息吸ってはいてるだけ、吐いてるだけ。」
「いや、✕✕が吸ってるのは煙でしょー。」
「確かにー。」
と、ギャハハと笑い合っている。
ただ息をするだけ、よくわかっているじゃないか。
イライラしていた。自分の息が荒くなってきたのを感じる。
「ま、皆そうでしょ。お偉いさんも、みんな、結局二酸化炭素はいて死ぬだけ。地球オンダンカ。」
また二人で笑い出す。
すると、ゲラゲラ笑っていた男が、笑いすぎたのかゴホゴホと咳き込んだ。
「ちょ、大丈夫?」
女は呆れたように彼の背中を叩く。
「息するしかできないのに、それすらも下手くそって。シューショクできないかもね。ほら、深呼吸深呼吸。」
息をするのも下手くそなのか。
フラフラと歩く二人とすれ違ったとき、僕は、深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
_________
最後までお読みいただき,ありがとうございました.
画像は『フリー写真素材ぱくたそ』より,”混雑する駅のホーム”.
noteを最後までお読みいただき,ありがとうございます. 博士後期課程で学生をしています. 頂いたスキやコメントを励みに,研究,稽古に打ち込んでいきたいと思います. よろしくお願いします.