Kiki

141文字目の言葉たち。いつもはTwitterにいます。ここではそこからこぼれは言葉た…

Kiki

141文字目の言葉たち。いつもはTwitterにいます。ここではそこからこぼれは言葉たちを綴ります。雨の始まりのように、ぽつりぽつりと。 TwitterID: @kikibonjour

最近の記事

峠三吉 原爆詩集

戦争によって失うのは人間であり、人間の未来です。 失われた人間は、二度と元に戻ることはありません。 帰ってくるものは何もありません。 なぜ人間同士が人間を奪い、人間の未来をも奪うのか。 私はこどもの時にこの詩と出会いました。 こどもでありながらこの詩にひどく傷つきました。 その後も苦しみました。 今、改めてこの詩をここに置くことにしました。 これ以上、人間が人間を奪わないでほしい。 これ以上、人間が人間の未来を奪わないでほしい。

    • なんと美しい夕焼けだろう

      この詩は、岩波新書の復刻版である真壁仁編「詩の中にめざめる日本」に収められています。この本には、いわゆる詩人を肩書きにし、職業としていた人ではなく、真壁さんが言う民衆の詩の集まりです。ただ美しいように見える飾りのような言葉ではなく、血や肉や足音が聞こえてくるような命の言葉ばかりです。 その中でも心に残り、何度も何度も目で読み、音で読んだのがこの中野鈴子さんの「なんと美しい夕焼けだろう」と言う詩です。 始めは、読みながら美しい夕焼けを浮かべるでしょう。けれども、この美しい夕焼

      • 高階杞一 春の食卓

        春の食卓に向き合って ぼくたちは 互いのさらに盛られた春の 一部始終を食べる ときおり細い雨が降り ときおり人が行き過ぎる そんなありふれた景色の中で だまって 目の前のたくさんのみどりでお腹を満たす 話すことも 話し合いたいことも ありあまるほどあったけど 何も言わないで ぼくたちは それから 別れていくまでの 長い長い朝食をした ー高階杞一「春の食卓」 この詩は、わたしのお気に入りです。 ただ自分の中で言葉として表れない、ここに書くことも難しいくらい読めば読むほど、深く

        • 長田弘 立ちつくす

          祈ること。ひとにしか できないこと。祈ることは、 問うこと。みずから深く問うこと。 問うことは、ことばを、 握りしめること。そして、 空の、空なるものにむかって、 災いから、遠く離れて、 無限の、真ん中に、 立ちつくすこと。 大きな森の、一本の木のように。 あるいは、佇立する、塔のように。 そうでなければ、天をさす、 菩薩の、人差し指のように。 朝の、空の、 どこまでも、透明な、 薄青い、ひろがりの、遠くまで、 うっすらと、仄かに、 血が、真っ白なガーゼに、 滲んでひろがって

        峠三吉 原爆詩集

          長田弘 世界はうつくしいと

          うつくしいものの話をしよう。 いつからだろう。ふと気が付くと、 うつくしいということばを、ためらわず 口にすることを、誰もしなくなった。 そうしてわたしたちの会話は貧しくなった。 うつくしいものをうつくしいと言おう。 風の匂いはうつくしいと。渓谷の 石を伝ってゆく流れはうつくしいと。 午後の草に落ちている雲の影はうつくしいと。 遠くの低い山並みの静けさはうつくしと。 きらめく川辺の光はうつくしいと。 おおきな樹のある街の通りはうつくしいと。 行き交いの、なにげない挨拶はうつく

          長田弘 世界はうつくしいと

          志樹逸馬 春

          ものの芽の均しく 天を指さす季節が来た 人間だけが 暗いくらいと 地上を右往左往していた 志樹逸馬詩集「春」 わたしは春が近づくと志樹さんのこの詩を心の中にそっと収めます。 植物たちと季節との関わり、そして人間の存在。 彼らは生き生きと瑞々しく空に光に向かって指をさす。 けれども人間は暗いくらいと下を向いて右往左往する。 わたしたちの人生はいつも慌ただしく、季節を通り過ぎていくだけのように思えます。地上に這いつくばり目の前の問題の処理に追われて、同時に時間に追われていきま

          志樹逸馬 春

          志樹逸馬 わたしはこんな詩が書きたい

          白いページをめくれば話しかけてくる 実在のことば 親しく 目の前に生きて あたたかくにおう詩を書きたい 読む人に身近な置物のように 青空のように 草におきこずえにしたたる露のように 涼しいせせらぎのように 父母のように 夫婦のように 兄弟姉妹のように ふんわりふくれて香ばしいパンのように 涙の詩を 笑いの詩を ねむりの詩を 手にとって食べられる詩を 生命に酔える詩を あなたがひとり散歩にでかけるとき ポケットにすべりこませてゆける詩を 病床で口ずさめる詩を 石を割りつつうたえ

          志樹逸馬 わたしはこんな詩が書きたい

          リルケ 若き詩人への手紙

          「あなたが書かずにいられない根拠を深くさぐってください。それがあなたの心の最も深い所に根を張っているかどうかしらべてごらんなさい。もしもあなたが書くことを止められたら、死ななければならないかどうか。自分自身に告白して下さい。何よりもまず、あなたの夜の最もしずかな時刻に、自分自身に尋ねてごらんなさい。私は書かなければならないかと。」リルケ著「若き詩人への手紙」 つい先日、とある会社に応募書類を書いていました。 自分の得意なことや、働きたい理由など。 夢中になって書いていけばい

          リルケ 若き詩人への手紙