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長田弘 立ちつくす

祈ること。ひとにしか
できないこと。祈ることは、
問うこと。みずから深く問うこと。
問うことは、ことばを、
握りしめること。そして、
空の、空なるものにむかって、
災いから、遠く離れて、
無限の、真ん中に、
立ちつくすこと。
大きな森の、一本の木のように。
あるいは、佇立する、塔のように。
そうでなければ、天をさす、
菩薩の、人差し指のように。
朝の、空の、
どこまでも、透明な、
薄青い、ひろがりの、遠くまで、
うっすらと、仄かに、
血が、真っ白なガーゼに、
滲んでひろがってゆくように、
太陽の、赤い光が、滲んでゆく。
一日がはじまる。
ここに立ちつくす私たちを、
世界が、愛してくれますように。
ー長田弘「立ちつくす」

一年と少し、わたしたちは世界の中で立ちつくしているように思うのです。目の前に引かれていたレールは途切れてしまったと感じて、心の奥深く自分でも気が付けないところが、不安で心配で、見えなくなってしまったレールの先の前で、立ちつくしているように思えるのです。春の始まりだというのに。

長田さんの「祈ること。」からはじまるこの詩は、時間を超えた場所から、わたしたちへのメッセージのように感じます。
目には見えないウイルスというもの。祈りという行為の先は目には見えないもの。

わたしはこの一年と少し、たくさん祈ってきたように思います。多くの人が悲しむことがないようにと。目には見えないものに怯え、けれども、目には見えないことをしてきました。

「祈ること。ひとにしかできないこと。」
世界の中で、立ちつくして、そして、ひとにしかできないことは「祈ること。」
それは「希望」と呼ぶのかもしれない。

この世界にある目に見えないものをすべて祈ろうと思うのです。
そして、その祈りで、目には見えないものを希望に変えていこう、と。

一日のはじまり。
また「世界が、愛してくれますように。」と。

よい週末を。


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