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涙腺

ワタシは完全なる犯罪を犯した。

これは犯罪者による供述が書かれた文章である。

18歳になった途端、ワタシはよく泣くようになった。

ドラマのクライマックス、
子供のがんばり、
保険会社のCM、
バラエティ番組の煽りで入る応援ソング。

心臓がジェットコースターの落ちる寸前のようにすくわれる感覚を覚えたらそれまで。

しょっぱ、と心の中でささやく。

母親からは

いくら何でも早すぎでは?と言われ、

同級生からは

先述した保険会社のCMについて話したあたりから
つまらなそうな顔をされる。

あまりにも従順な返しに、
ワタシはよだれが止まらないのである。

お分かりだろうか?
この人たちは藤本たくま容疑者による
「涙腺ゆるいんだよね、を引き金に感情の豊かさアピール押収罪」の被害者なのである。

つまりワタシは意図的に涙を流している。


はじめは軽い気持ちだったんです…!

テレビでキャラにない人がワイプで涙を流し
SNS上で高感度を上げていたり、
「オレあんまり涙とか流さないんだよね」
というドライ気取りな言葉に対するまわりの反応が
あまりにも無風状態であることへの憤りから
オレの涙腺の崩壊計画は始まったんです。

悪いのはオレじゃない…社会が悪いんだ!!!

だがワタシだってもう耐えられない…これ以上苦しい思いをしたくなかった。
だから刑事さん、オレを捕まえてくれよ。頼む。

もう少しお付き合いください

はじめはオレも映画とかで心から感動した時に
家族が目の前にいたとしても涙を止めない、我慢しないくらいのことだった。

「ボヘミアン・ラプソディ」のライブ・エイドの伴奏でも泣いたよ。タイミングも完璧だった。

そこからは計画通り。

数カ月で15秒間のCM中に号泣できるところまで成長した。

次に「オレ最近涙腺が緩くなっちゃってさぁ」の布教を始めたんだ。

「早くね?」

「さすがに泣きすぎだろ」

って言葉を何度も頂いてさ。
気持ちよかったなぁ。

そこからだんだんやめられなくなっていった。

でも最近思ったんだよ。
これは自分にウソついちゃってるんじゃないかって。

これはほんとの話で、頭の中で
泣く直前オレのことを一台のカメラがアップでおさえてるのが見えるんだ。

カチンコを持った手が伸びてきてカチンって音がする。
それに合わせてまぶたを閉じると一滴涙が流れる。

流れたら次の瞬間目の前の景色がバッと消えて、
同時に感情も薄れていく。
涙腺を崩壊したら、今度は涙腺調節器が出来あがっちゃったんだよ。

そのときにさぁ、
なぁにやってるんだろうオレ、って。

あの頃のように自由に泣ける日はもう来ないのかなって想像したら寂しくなって
気づいたら刑事さんの所に手紙持ってきてたよ。

だから頼むよ刑事さん。オレを自由にしてくれ…

もうこの口調やめていい?


瞬間 < 過程を大切にするべき


またもよく分からない設定に振り回されている。
二度も過ちを繰り返してはならない。
だいいち、文章なんだか会話なんだがはっきりしてほしい所である。

とにかくこの犯人が伝えたいことは涙を流す行為が”瞬間的感情”になっちゃったことだ。

元来、19歳くらいの人間は映画などの流れや過程をしっかりと見てやっと涙腺を開放する人が多い。
そして歳を重ねると、1シーンだけの、
情報が少ない中でもなぜか泣けてくるという「赤ちゃんに逆戻り」状態になる。


運動会のラストに興奮して泣く女子の涙がわかりやすい。

その瞬間だけ切り取れば、
だれに対していい子ちゃんアピールしているのだろう?と思うが、
大体その子にスピーチさせると

「ずっと練習してきたから」とか

「ケンカもあったけど」

とプロセスを理由に挙げる。

となるとつまりワタシはなぜかじじぃ化に憧れ
そして満を辞してじじぃになり、
少しだけ若さが残っていたのか
俳優並みのスキルも兼ね備えてしまった。

世の中を賑わし続けるモノにはストーリーがあり、
全容を知れば知るほど感動の幅や“スキ”になる人が多くなる。
それを無視してチラシだけで泣いていては、
都合の良い客ではあるがクリエイターにはなれない。

涙は笑顔でいることよりもとても労力のいることだ。

だったら、たくさん笑って
”時には”泣いてが
やはり丁度いいのだろう。

今日からワタシは前科者になる。
もう二度と犯罪には手を染めないつもりだ。

プロセスを大事にできるJKを目指し
しっかりとお役目を務めたいと思っている所存だ。
だからどうか足を洗って出てきたら、笑顔で迎えにきて欲しい。

母へ

P.S. 警察にあなたがくるのはここじゃない、と言われました。
おすすめの病院(できれば総合系の)を教えてくれると助かります。

ー体調には気をつけてー

プロフィール:藤本たくま(19)
脚本家・演出家を目指している。YouTubeチャンネル「19歳」開設予定。
一番泣いた映画→「パッチ・アダムス」

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