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みけがいた日々

忘れられない猫がいる。
それは、留学中に住んでいたアパートに住み着いていた野良猫だ。三毛猫なので、みけと呼んでいた。

みけとの出会いはよく覚えていないけれど、多分気がついたら近くにいたんだと思う。メインの住処にしていたのか、みけはほぼ毎日うちのアパートにやってきた。
それにみけは、野良の割にはとても人懐っこい猫だった。いつも花壇に香箱座りで座っていて、「みけ」と声を掛けるとぴょんと飛び降り、足元にすり寄ってきた。ある日、朝学校に行こうとしたらみけがいたので「行ってくるね」と声をかけたら、途中までついてきたことすらあった。大家さんをはじめ皆に可愛がられていたみけだったけど、一応アパートの建物の中には入れてはいけないという決まりだったので、にゃあ、とすり寄るみけを振り切るのがいつも大変だった。物理的にも、気持ち的にも(笑)

私は実家で猫を飼っていて、それはそれは可愛がっているのだが、飼い猫かつ家猫なので毛艶もいいし、体つきも丸い。対してみけは、いつもちょっと茶色っぽいし、細い体をしていて、やはり野良猫だなあと思っていた。それでもどこか柔らかかい顔つきだったのは、色んなところで可愛がられていたからなんだろうなと思う。

そんなみけだが、もう少しで帰国だという時、アパートに姿を見せなくなったことがあった。大家さんによれば、最後に見かけた時はどうやら体調が良くなさそうで、餌をあげても食べなかったという。今まで当たり前にみけと過ごしていたから忘れていたけど、そもそもあの子は野良猫だった、と痛感した。来る日も来る日もみけに会えず、このまま会えずに帰国しなければならないかと思っていたある日、買い物から帰ると駐車場にみけがいた。そっと近寄ると、いつものように、にゃあとすり寄ってきた。頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めた。みけに会ったのはそれが最後で、その数日後に私は日本へ帰ってきた。

みけのことを今でも忘れられないのは、単に可愛かったからというだけではなくて、かけがえのない存在だったからだ。
夢だった留学とはいえ、異国で生活するというのはやはり大変なことも多くて、毎日楽しかったけどそれなりにハードでもあった。でも家に帰ればいつもみけがいた。

みけとの日々を振り返ると、本当になんてことのない毎日だったなあと思う。学校の行き帰りに声をかけたり、時々ペットボトルのふたで遊んだり、暖かい日は昼寝するみけの隣に座って一緒にひなたぼっこしたこともあったっけ。そして最後はすり寄るみけを振り切って家に帰り、また次の日の朝に会う。いつもの花壇にみけがいる、そのことがささやかな、けれど確かな支えになっていた。

当時、アルバイト代で一眼レフカメラを買ったばかりだったので、練習も兼ねてみけの写真をたくさん撮った。せっかくなのでその一部をアップさせていただこうと思う。自分でも久々に見返したけど、みけとの日々が懐かしく思い出された。

きっとこの先、みけに会うことはもうないだろう。だけど私は、みけのことをずっと忘れないと思う。

万年枯れきっている花壇にて(笑)ここがみけの定位置。
すっかりリラックスしているみけ。
ちんまり収まるみけ。
伸び切ったみけ。朝学校に行く時に後ろをついてきたのでスマホで激写。
Victorの犬みたいなみけ。
実はアパートには他にも猫が何匹か住み着いていた。奥に見えるのはやはりアパートに出入りしていた、とら。
ありがとう、みけ。

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