見出し画像

魔女になりたい。

散文詩と詩の間くらいのもの。

***

わたしは魔女になりたい。
あなたは大丈夫、そう微笑んだときに
わたしが心からそう信じていることを、知っていてほしいから。
大丈夫なんて思えなくても、何らかの魔法や呪文でもって、それを確信している魔女がいることを知っていてほしかったから。

お元気ですかと羽ペンを走らせるけれど、本当は、こちらは元気です、なんて返事を期待しているわけではないの。だって、すぐに返事が来ればあなたはきっと元気にやっていて、返信が来なければ、きっと元気ではないのだろうから。ただ、あなたの幸福を願う魔女がいることを、思い出してほしかっただけ。


だからわたしは魔女になりたい。

わたしはいつもフードを被っていて、あなたの目を覗き込んだりしないし、愛想笑いの接客もしない。代わりにそっとラベンダーの香りを添えるから。あなたがふっと、庭を眺めたくなるように。

魔女になりたい。
便箋に魔法をかけて、開いたときにハーブが香るようにしたい。そうしたらきっと、カーテンを閉めていたって庭のそよ風を感じられるだろうから。


いつか、わたしは魔女になろう。少しずつデザインの違う、7着の黒いワンピースを着よう。先のとんがった黒い靴を新調しよう。
街外れの丘の上で、菜園つきの一軒家に暮らそう。朝方は薬草を採集して昼過ぎから店を開いて薬屋をしよう。
満月の日には夜露を集めて、新月の夜には妖精と会話しよう。


あなたがその魔女を、生前の名で呼ぶことはないでしょう。だけど新しい名前もいらない、ただの「魔女」でいいから。


いつかわたしは、魔女になりたい。


***

私はいつだって魔女になりたいと思っている。連絡を取るのは、返信がほしいからというよりは、元気か確認したかったから。でも、きっとここ最近は元気じゃないのでしょうね。返信が来ないとやっぱり「私」はどこか傷ついていた、元気のない君にとって今の私が煩わしい存在だってわかっていたから。もしかしたら、別の誰かからの連絡には返信できて、私のは面倒なのかもしれないから。

何が正しいのかはわからない。元気じゃない人に連絡なんて取るべきじゃないのかもしれない。私は人を元気にすることに向いていない。私は自分の価値観を大事にしてるから、逆にそれを押し付けてしまうし、全く別の話題で雑談するのも苦手。向いていないのは知っている。

せめて君に送る言葉に、さっぱりした香りでも乗せられたらいいのに。カーテンを開けたくなるような、朝露の香りを届けられたらいいのに。

「私」からじゃない、どこかの名も知れぬ「魔女」からの不思議な手紙なら、魔女が便箋にかけた魔法を、いつだって君は楽しんでくれるだろうに。

最後まで読んでくださりありがとうございます。読んでくださったあなたの夜を掬う、言葉や音楽が、この世界のどこかにありますように。明日に明るい色があることを願います。どうか、良い一日を。