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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2024年3月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第306話

月の砂漠のかぐや姫 第306話

 もちろん、そんなことがあって良いはずがありません。それを止めるために、一刻も早く、地上に戻らなければいけません。
 では、一体どうすればいいのでしょうか。
 この地下世界はとてつもなく大きくて、どこかに出口があるようには見えません。先ほど見上げたように、地下世界の天井は王柔たちの頭からとても離れたところに有ります。地下世界の地面から何本もの太い石柱が伸びていて天井を支えているのですが、それはとて

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月の砂漠のかぐや姫 第305話

月の砂漠のかぐや姫 第305話

 でも、地下世界に天井があるということは、その上には地面の層があるということを意味しますし、さらにその一番上には地表があるということでもあります。
 頭上を仰ぎ見ている王柔には、地下に閉じ込められている自分たちのちょうど真上に当たる地上で、いま正に繰り広げられているであろう光景が、容易に思い浮かべられました。

 弓矢を背負い短剣を腰紐に差した冒頓の騎馬隊が、太陽の強い日差しに晒されて脆くなったゴ

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月の砂漠のかぐや姫 第304話

月の砂漠のかぐや姫 第304話

「ははぁ、なるほど・・・・・・」
 ヤルダンは砂岩でできた台地が複雑に入り組んだ地域です。そこには、人の世界ではないどこかへ通じていそうな妖しい岩陰や奇妙な形をした砂岩の塊がたくさんあり、人知を超えた精霊の力が強く働く場所として、人々から「魔鬼城」と呼ばれています。月の民が交易で使用している道は、このヤルダンの台地の隙間を縫うようにして、東へ、又は、西へと伸びているため、ヤルダンの管理をしている王

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月の砂漠のかぐや姫 第303話

月の砂漠のかぐや姫 第303話

「もう一つ付け加えさせていただきますと・・・・・・。王柔殿、理亜はあまりに良い子過ぎませんか?」
「はい? いや、理亜は良い子ですが?」
 王柔は、どうして羽磋がこんな時に冗談を言うのだろうと、耳を疑いました。「いまはこの上もなく大事で真剣な話をしているところなのに、どうして」と思ったのです。
 ところが、羽磋は冗談を言っているつもりなど、全くありませんでした。
「もちろん、それはわかっています。

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