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【マガジン】月の砂漠のかぐや姫

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今ではなく、人と精霊が身近であった時代。ここではなく、ゴビの赤土と砂漠の白砂が広がる場所。中国の祁連山脈の北側、後代に河西回廊と呼ばれる場所を舞台として、謎の遊牧民族「月の民」の… もっと読む
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2024年2月の記事一覧

月の砂漠のかぐや姫 第302話

月の砂漠のかぐや姫 第302話

 王柔の様子を見た羽磋は、少しだけ可笑しくなりました。
 「あまりにも突拍子も無さ過ぎて・・・・・・」と首を捻っている王柔が立っているのはどこでしょう。いままでにこんな場所があるなんて考えたことは一度もなかった、ヤルダンの地下に広がる大空間です。王柔の向かい側で、地面から少し離れた空中に浮かんでいるのは何でしょう。昔話でも旅物語でも聞いたことのない、大人を数人重ねたほどの大きさで、荒れ狂う嵐を内包

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月の砂漠のかぐや姫 第301話

月の砂漠のかぐや姫 第301話

「理亜の身体の中に、理亜とあの昔話の少女の二人分の心が入っているのですか? 幾らなんでも、無理じゃないですか? それじゃ、上手く身体を動かせないですよ」
 流石にこれは言わずにはいられないという様子で、羽磋と理亜を交互に見ながら、王柔が疑問を差し挟みました。
 一つの身体には一つの心が入っているのが当たり前です。一つの身体に二つの心が入っていたら、どうなるでしょう。例えば、一方の心が前に進もうと思

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月の砂漠のかぐや姫 第300話

月の砂漠のかぐや姫 第300話

 せっかくのこの機会は逃せません。羽磋は胸に手を当てて高まりつつあった動悸を鎮めると、大きく息を吸ってから、声を発しました。できるだけ首を振って、濃青色の球体と王柔たちとの両方に顔を向けるように気をつけながら、羽磋はゆっくりと、そして、はっきりと言葉を続けました。濃青色の球体と王柔たちは、呼吸をすることを忘れるほどに集中して彼の言葉に聞き入ったので、地下世界の地面を流れる川の水音や球体下部から落ち

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月の砂漠のかぐや姫 第299話

月の砂漠のかぐや姫 第299話

 その少女が地下世界に入り込んできた時から、ぼんやりとした意識の中ではありましたが、母親は彼女から自分の娘に近いものを感じとっていました。その感覚があったからこそ、実際に彼女を見た時に、その容姿が自分の娘と全く異なることに大きな落胆を感じたのでした。また、そこで生じた激しい感情の動きが、久しく眠っていた母親の意識を呼び起こしました。ただ、働き出した母親の頭が導き出した結論は、少女が何らかの目的で自

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